第581話 第一魔族領の困り事

「まぁ兄ちゃん。何しに来たかは知らないが、せっかく来たんだ。飯でも食ってけ」

「え? ど、どうも」


 情報収集するにしても、せっかくの好意なので無下にする訳にもいかず、一先ずついて行く事にしたのだが……この男性は何処か体調が悪いのか? 随分とゆっくり歩くな。


「……パパー。このひと、めが……というか、からだの、いろんなところが、よくないみたい」

「なるほど。もしかして、治癒系の魔法を使える者や、薬などが無いのかもしれないな」


 ユーリの言葉で、この男性は眼や身体が良くないという事が分かったので、一旦治癒魔法をかけてみる事に。


「すまない。少し、失礼する。≪リフレッシュ≫」

「ユーリもてつだうねー! ≪ミドル・ヒール≫」


 俺とユーリがそれぞれ治癒魔法を使うと、


「えっ!? ……あ、あれっ!? この前、魔物にやられた眼と脚が……見える! ハッキリ見えるぞっ!」


 突然男性が大喜びし始めた。

 どうやら、最近魔物に攻撃されて負傷し、俺の姿がぼんやりとしか見えていなかったらしい。

 だが、まだ完全に傷が治り切る前で良かった。

 傷が塞がって、古傷になっていたら、俺やユーリが使える中位の治癒魔法では治せなかったからな。


「あんた、治癒魔法が使えるのか……って、獣人族じゃない!? 魚村の者じゃないのか!?」

「え? あぁ。俺たちは下から……北の大陸から来たんだ」

「俺たち……って、女の子が居るっ!? 兄妹で旅をしているのか? いや、そんな事はどうだって良い。た、大変だっ! アンタ、名前は……アレックスさんか! 急いで来てくれ! 皆、救世主が来たぞぉぉぉっ!」


 いや、救世主って。

 ……しかし、この第一魔族領の外から誰も来られず、かつ村の中に治癒魔法や薬の知識を持った者が居ないとなれば、救世主扱いされるのも仕方ないか。

 せっかくなので、この村の全員に治癒魔法を掛けておくか。

 そう考え、ユーリと共に村の中では一番大きな家に招かれた。

 何でも、ここは先程の男性の父親の家らしく、夕食には未だ早い時間だが、テーブルに食べ物が並べられる。


「おぉぉ……アレックスさん。よくぞ……よくぞ来てくださった。私は、この野菜村の村長のような者ですじゃ」

「野菜村? 確か、もう一つ魚村というのがあるんですよね?」

「えぇ。ここには村が二つしかありません。野菜を作っているから野菜村で、もう一方は湖で魚が獲れるので、魚村ですじゃ」


 これも、宙に浮いている第一魔族領故の事情か。

 聞けば、二つの村は歩いて半日程離れた場所にあるそうで、月に二回程の間隔で、野菜と魚を交換しているらしい。


「そうだ。今、お出しさせていただいたのは、この村で採れた野菜を使った料理なんです。どうぞ召し上がってください」

「では、お言葉に甘えて……うん。とても、旨い」

「ほんとだー! ポテトっぽいのがホクホクー!」


 ここが物凄く高い位置にあるからか、見た事のない野菜ばかりだが、野菜の調理に長けているらしく、とても美味しい料理だ。

 出してもらった料理に舌鼓を打ったところで、先ずは村人たちの本題を解決した後、情報収集させてもらう事にした。


「ところで、先程あちらの男性が俺たちの事を救世主だと……治癒魔法を求めているのでは?」

「それもありますが……そうですね。先ずはお願いしても良いでしょうか。治癒魔法を使える者が一人だけ……私の妻が使えるのですが、何分高齢なので、一日に使える回数も限られているので」

「わかりました。では、治癒魔法を求めている方を集めていただけますか? 俺はパラディンというジョブを授かっていて、中位の治癒魔法までしか使えないが、その代わりに魔力量は多いので。というか、念の為村人全員に治癒魔法を掛けても良いのだが」

「それは助かります。妻は、魔物の肉を食べる為の浄化魔法と、重症者にしか治癒魔法を使えないので、軽傷の者は自然治癒頼みでして」


 村長とそんな話をし、村人全員を呼んだのだが……全部で三十人にも満たない村だった。

 それから全員に治癒魔法を掛け終えると、村長が改まって頭を下げてくる。


「アレックスさん。この村へ来た理由や名前以外殆どの事を聞いていないような状態ですが、あと一つお願いしたい事があります。どうか、この村を救うと思って、頼まれていただきたい」

「俺は、この場所へある目的があってやって来た。その目的を妨げない事と、向こうに見える城のようなものについて教えてくれるというのであれば、その依頼を受けよう」

「分かりました。お話し出来る事であれば、何でもお話ししますので、どうか……どうかお願い致します」


 何やら只ならぬ様子なので、先ずは話を聞く事にした。

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