第582話 アレックスは逃げだした! しかし、回り込まれてしまった
先ずは俺の目的を村長に伝え、玄武の情報を聞く事に。
ひとまず、今更ではあるが、この第一魔族領へ来た経緯を説明する。
「……という訳で、俺はこの地に玄武が捕らえられて居ると考えて来たのだが」
「なるほど。まさか青龍様をお助けくださった方だったとは……」
「それで、あの城のようなところに玄武が居ると思って良いだろうか」
「そうですね。まだ私が子供の頃の話になりますが、この地が宙に浮いた際……生かしてやるが、この島には決して近付くな……と、聞いた事の無い恐ろしい声が響き渡った事を覚えております」
六十歳くらいに見える村長は、第一魔族領が空へ浮かんだ頃を知っているらしい……というか、浮き上がる瞬間を体験したそうだ。
海に面していたのに、大きな地鳴りと共に陸地がせり上がり、更に地面が割れて、この第一魔族領にあたる範囲がグングン高く上がって行ったと。
空へ上がった直後は、風が凄く、この地から落下する者も居たのだとか。
それが、いつの間にか風の壁が生み出されて落下する事がなくなったのだが、代わりに黒い雲が周囲を覆って何も見えなくなったらしい。
「この地が、風の四天王に――魔族に狙われたのは、玄武の社があるからだと聞いたのだが」
「その通りです。あの城がある場所に、元は玄武様の社がありました。ですが……ここだけの話ですが、この村でも、もう一つの魚村でも、玄武様の話はあまりしない方が良いかと」
「何故だ? 玄武はこの辺りの地の守り神的な存在ではないのか?」
「その通りです。私からすると、魔王を倒し、世界を平和にしようとしてくださった、偉大な神獣様です。しかしながら、この村の私の下の世代になると違うのです。玄武様が居るせいで、狭い世界に閉じ込められてしまったと、考える者が居りまして」
そうか。玄武がこの地に居るから、自分たちが巻き添えをくらってしまったと……そう考えてしまうのも、わからなくはない。
おそらく、村長の息子であろう、先程の四十代くらいの男性は、生まれてから一度も魔族領から出た事が無い訳だしな。
「……こほん。そういう訳で、あの城に玄武様がいらっしゃるのは間違いないかと」
「わかった。ありがとう。では、次は貴方の話を聞こう。今の、玄武を助けるという目的に反しなければ、協力させてもらおうと思っている」
「ありがとうございます。ただその、そちらの妹さん……幼い女の子に聞かせられない話でして」
「……そうなのか? それは困ったな」
いくらパラディンの防御スキルで守っているとはいえ、幼いユーリに席を外してもらって、見知らぬ地で一人にするというのはな。
「パパー。ユーリなら、だいじょうぶだよー。こーして、みみをふさいでおくからー」
「……という事なのだが、大丈夫だろうか」
「アレックスさんと、妹さんが問題ないのであれば、私は構いませんが……」
そう言って、ユーリが両手で自身の耳を塞いだので、村長が話を続ける事に。
どうでも良いが、ユーリは妹ではなく、娘みたいな存在だし、思いっきりパパと呼んで居るのだが……まぁいいか。
「……こほん。アレックスさんは、先程この野菜村の村人全員に治癒魔法を使ってくれました」
「あぁ、そうだな」
「全員で何人居たか、わかりましたでしょうか」
「……三十人弱と言ったところか?」
「はい。老人が六人に既婚者が八人に、子供も八人で、残りが若者三人の、全員で二十五人しか居ない小さな村です」
そうそう。老夫婦を除くと、四家族しか居なかったのだが、それぞれの家庭に子供が二人以上居たんだよな。
「おそらく、各家庭に子供が多いと思われたでしょうが、これは仕方ない事なのです」
「ん? ……あ、魔族領の外から人が来ないからか」
「はい。そういう訳で、各夫婦には子作りに励んでもらって居るのですが、問題がありまして……次の親世代になる若者三名が、全員女性の為、結婚出来ないのです」
「ちょ、ちょっと待ってくれ。嫌な予感がするんだが」
「流石に、自分たちの父親や祖父と……なんて事は嫌でしょう。一方、その下の子供たちには男の子は居るのですが、まだ六歳くらいの男の子に、子作りはさせられません」
「じゅ、十年待てば、大丈夫だろ」
「その頃には、女性が二十六……村の人口を増やす為には、もっと早くから出産しなければ!」
あぁぁ、やっぱりそういう依頼なのかっ!
「もう一つの村……魚村から、人を呼べば良いだろ」
「残念ながら、魚村の住人は獣人族ですからな。種族が違うと、子作りは出来ても、子供が出来る確率が大きく下がるのです。こう言ってはなんですが、私の孫娘は美人で可愛いです! さぁ、アレックスさん! この村を救う為に、一肌脱いでください!」
気付いた時には、
「私たちがお手伝いしまーす!」
「向こうの部屋で、私たちの娘が三人待っていますので、是非」
「何なら私も混ざりたい……こほん。どうぞ、こちらへ」
料理を作ってくれたという、女性たちに囲まれてしまっていた。
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