第580話 第一魔族領へ潜入成功?

「くっ……ユーリ。無事か!?」

「うん。ユーリはだいじょーぶ。それより、パパは?」

「え? 大丈夫だ。俺は全く問題ない」


 それなりに高い位置から落下してしまったが、緑の草がクッションになったのか、それともここの土が柔らかかったのか、少しも痛くない。

 よく見たら、土が大きくへこんでいるから……うん。土が柔らかかったみたいだ。


「それより、ここを離れるぞ。それなりに大きな音がしただろうし、誰かが様子を見に来るかもしれない」

「わかったー」

「ユーリは……とりあえず、このまま俺に抱きついていてくれ」


 地上からかなりの高さで、ここへ昇って来るまでも、強い風を受けながら飛んで来たのだが、不思議とここでは風を感じない。

 レヴィアの魔力弾を防いだ防御魔法が風も防いでくれているのだろうか。

 まぁ上から落ちてきてすんなり入れたので、上部には防御魔法を張っていないようだが。


「ねぇ、パパー。そとからみたら、くろいくものなかのはずなのに……くらくないねー」

「言われてみればそうだな」


 前方に目をやると、緑の大地が広がっていて、何やら建物のような物があるようにも見える。

 一方で、大地の端に目をやると、黒いカーテンが掛っているかのようで、大地の外が――真下にあるはずの海や、北の大陸が見えない。

 これは、この第一魔族領の周囲に防御魔法が張られていて、その防御魔法の外側を黒い雲が覆っているという事だろうか。


「とりあえず、移動しよう。右手に小さな建物が見えて、左手に大きな建物があるな」

「パパー。おおきな、おしろ? みたいなほうからは、つよい、まりょくをかんじるよー?」

「なるほど。強い魔力を感じるという事は、左手に見える城に四天王や玄武がいるのかもしれないな。先ずは右手の建物へ進み、何かないか探してみようか」


 右手の小さな建物に向かい、出来るだけ気配を消して、だが素早く走って行く。

 その途中で、木や花畑などがあったので、ラヴィニアの母親が言っていた通り、北の大陸の一部がそのまま持ち上げられたのだろう。

 第一魔族領の端だからか、それとも単に運が良かったのか、何にも遭遇する事無く進み、小さな建物がハッキリと見えだした。


「あれは……家か? というか、沢山あるな」

「パパー。もしかして、むらじゃないかなー?」

「村か。元々村があった場所が、空へ昇って来たというのであれば、あり得る話だな。だが、おそらく今は無人か、魔物の巣窟だろうな」


 そう言いつつも、この第一魔族領の情報が得られるような物がないかと思い、村へ行ってみる事に。

 村に近付いてみると、堀で囲まれ、その奥に柵が巡らされている。

 魔物対策をしっかり行っている村なのだが、こうして周辺の大地ごと、宙に浮かぶ事になるとは思ってもみなかっただろう。

 そんな事を思っていたのだが、物凄く気になる物を見つけてしまった。


「……ユーリ。あの家……煙突から煙が出ているように見えるんだが」

「ほんとだー。ユーリも、けむりだとおもうよー?」

「まさか、人が住んでいるのか?」

「そうかもー! だって、あのさくのむこうに、はたけがあるもん」


 ユーリの視線の先を見てみると、柵に囲まれた中に、緑色の豆畑のような場所がある。

 流石に魔物が畑を作ったりはしないだろうから、もしかして数十年前に宙へ浮いた村が、そのままここで生活を続けているという事なのか!?


「い、行ってみるか。ユーリは、俺の後ろに隠れていてくれ」

「うん。わかったー」


 堀と柵をひょいっと飛び越えると、村の中へ入り、周囲を見渡す。

 村の中では普通に畑仕事をしている男性が居たので、恐る恐る近付いて声を掛けてみる。


「すまない。話を聞かせてもらって良いだろうか」

「んー? なんだー? 兄ちゃん、見た事ない顔だなー?」

「あぁ。俺はアレックスという者なのだが、今この村に着いたばかりなんだ」

「ほぇー。んだら、向こうの魚村から来たのかー? まだ交易の時期でもねぇのに、どーしたんだ?」


 魚村? ここ以外にも、別で村があるのか?

 離れた村が少なくとも二つはあるようだが……一体、この第一魔族領はどれ程の広さがあるんだ!?

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