第579話 翼の生えたアレックス
変身する薬を飲み、逢瀬スキルで見たヤキトリ――有翼族の翼をイメージする。
ヤキトリは幼い女の子だったが、あのヤキトリをもっと大きく……ユーディットの翼のようなイメージを描くんだ!
暫くすると、腕に違和感が現れる。
「アレックス。手が鳥」
「おぉ……本当だ。ちょっと、飛んでみるか……って、難しいな」
レヴィアに言われて見てみると、確かに腕が鳥……翼になっている。
ヤキトリのイメージをした甲斐があって、しっかり有翼族だ。
だが、イメージとは異なり、思ったように空を飛ぶ事が出来ない。
「パパー! あのねー、ぱたぱたすれば、とべるよー!」
「パタパタ……こうか?」
「あ、アレックス! 風を前に送るのはやめるのじゃ。下へ向けるのじゃ」
ユーリのアドバイスに従い、力いっぱい腕を動かしたら、小さな身体のミオが吹き飛ばされそうになっていた。
とはいえ、真下に向けて腕を降ろしても、浮き上がる感じはしない。
「……あ。そういえば、鳥って最初はジャンプして、風に乗ってから翼を動かすよな。よし、プルム。悪いが前にやってくれた、ジャンプ台みたいな形になってくれないだろうか」
「アレックス。私は構わないけど、大丈夫ー? ここは灯台の一番上で、しかも高く跳ぶんだよ? 万が一落ちたら、大怪我で済まないかも」
「大丈夫だ。何とかする。それより、この薬の有効時間はそんなに長くないんだ。あそこまで飛んで行かないといけない訳だし、頼む!」
「えぇ……本当に大丈夫だよね? 私たち全員、アレックスが居ないと、もう生きていけないんだからね?」
「任せろ! きっと出来るはずだっ!」
プルムが口を尖らせながらも、ジャンプ台の姿になってくれたので、その上に乗り、大きく跳ぶ!
高く昇ったところで、一瞬無重力状態になり、落下が始まるというところで、腕を広げる。
そこから、力いっぱい腕を下へ……くっ! 何故だ!? 有翼族の姿になっているというのに、飛べない!?
「パパー! 風を……風を捉えてっ!」
ユーリが俺の後へついて来るように飛んで来てくれたけど……このままでは、ユーリを巻き込んで落下してしまう!
それは……そんな事は絶対にダメだっ!
「あ、そうだ。≪あじりてぃ・ぶーすと≫!」
「これは……敏捷性向上の神聖魔法!? あ、そうか。ユーリはユーディットと同じスキルが使えるんだったな」
「うん! ユーディットママのまほーだよー! あとねー、ちからで、むりやりはばたくんじゃなくてー、タイミングのほうが、だいじかもー!」
ユーリが神聖魔法をかけてくれたからか、力づくではなく、タイミングの方が大事だと教えてくれたからか。
単にコツを掴んだだけなのかもしれないが、滑空出来るようになった。
翼で風を掴んだ状態で、姿勢を崩さずに羽ばたいてみると、少し身体が上昇する。
「パパー! じょうずー! すごーい!」
「何となくだけど、わかったような気がする。ユーリのおかげだ」
「パパのセンスだよー!」
「とりあえず、上へ……あの雲の高さまで昇ろう!」
ユーリに応援してもらいながら少しずつ上昇していき……かなり時間を掛けてしまったが、ようやく黒い雲の傍まで登って来た。
しかし、下から見ていた分には、あまり認識していなかったが、近くまで来ると物凄く大きな雲なんだが。
「≪ディボーション≫」
念の為、ユーリのダメージを肩代わり出来るようにすると、下から見えていた緑色の場所へ向かう。
近くで見てみると……うん。やっぱり、大地だ!
早速、その緑の大地へ降り立とうとしたのだが……どういう訳か近付けない。
「かぜの……まほうかな? ぼうぎょまほうみたいなのが、はってあるみたい」
「風の防御魔法が張ってあるのか。しかも、レヴィアの魔法を逸らす程の防御壁となるとやっかいだな」
レヴィアの魔法は下から飛んできて、弾かれた。
俺も今、横から近づこうとして、見えない壁のようなものに阻まれているので、上からならどうだろうかと、ユーリと共に緑色の大地の上へ。
ここから降りられるのかを確認しようとしたところで、再び腕に違和感を感じた。
そう思った直後、翼になっていた俺の腕が普通の――人間の腕に変わっていて、一気に落下する。
「パパっ!」
「ユーリ! 来ちゃダメだっ! 巻き添えに……」
「やだっ! パパと一緒に居るのっ!」
「くっ……」
ユーリが落下する俺に抱きついてきて……どうする事も出来ず、そのまま緑の大地へ墜落してしまった。
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