第578話 トゥーリアからもらった薬

「天后。すまないが、大至急転移させてくれないだろうか」

「え? 突然どうなさったんですか?」

「玄武が捕まっている第一魔族領が、見つかったかもしれないんだ」

「そ、そうなのですね。わかりました。では、船へ移動いたしましょう」


 チェルシーたちアマゾネスの女性陣には村で待機してもらい、先程外に居たレヴィア、ミオ、プルム、ユーリの四人を連れて、天后と共に船が置いてある場所へ。

 トゥーリアとルクレツィアは置いて行ってしまう事になるが、今は一刻を争う。

 早く行かないと、黒い雲が風で流されてしまうかもしれないからな。

 まぁ、とはいえモニカたちの所へ行った結果、空振り……という事もありえるが、そもそも大きな黒い雲自体が中々見つからない状況なので、行くべきだろう。


「あら? あなた。出発するの?」

「あぁ。ラヴィニアも一緒に行くか?」

「当たり前じゃない」


 船のところに居たラヴィニアも一緒に乗り込み、天后の転移スキルで最北端の灯台がある場所まで戻って来た。


「レヴィア。すまないが、西へ移動を頼む」

「ん、わかった。今のレヴィアたんは、魔力がたっぷり。最高速で行く」


 レヴィアが早速海竜の姿に変身しようとして、


「あなた! レヴィアさん! ストップです!」

「え? どうかしたのか? ラヴィニア」

「あの……あそこに、大きな黒い雲が見えるんですけど」

「あ……本当だ」


 モニカが見つけた黒い雲を確認しに行こうとしていたのだが、北の空に黒い雲が見える。


「レヴィア。今あれに向かって魔力弾を放った後、最高速で移動は……」

「無理」

「だよなー」

「まぁアレックスが沢山魔力をくれたから、ゆっくりなら進めるかも」


 うーん。目の前の雲は後回しにして、大急ぎでモニカが居るところまで行って……って、モニカの方も確証は無い訳だし、あの雲を確認しないのはおかしいか。


「レヴィア。では、先にあの雲を確認してもらえるか?」

「わかった。けど、海面から放つより、陸地まで上がった方がより確実。魔力を練っておくから、抱っこ」


 魔力を練り始めたレヴィアを抱きかかえ、前に俺が作った道を登り、皆で灯台の一番上までやって来た。

 少しでも高い場所へ上がった方が、若干でも魔力を節約出来るという話だったのだが……よく考えたら、ここから魔力弾を放ったら、灯台の一部が壊れそうだな。

 幸い、灯台の最上部が外に出られるようになっていたので、レヴィアを抱きかかえて移動すると、黒い雲が見える北側へ。

 レヴィアが両手を突きだし、


「≪アクア・バレット≫」


 巨大な水の弾が雲に向かって飛んで行く。


「おそろしい魔力なのじゃ。これを絶対に陸地に向けて撃ってはダメなのじゃ」

「流石に、レヴィアもそんな事はしないだろ」


 ミオとそんな事を言っている内に、あっという間に水の弾が黒い雲を吹き飛ば……さない!?

 水の弾の軌道が逸らされた!?


「あ、アレックス! 今の……あり得ぬのじゃ! あのように強力な魔力の砲撃を防ぐなんて!」

「ま、待った! 今のレヴィアの魔法で、あの雲の端が掻き消えたんだが……何か、緑色が見えないか?」

「……そう言われてみれば、緑色にも見えるように思えるのじゃ」

「レヴィアの魔法を逸らした事と言い、あの雲から見える不自然な色と言い……あれが第一魔族領だっ!」


 偶然のタイミングなのか、別の条件があるのかは分からないが、今目の前に探していた第一魔族領と思わしきものが見えている。

 レヴィアの魔法でやっと届くという、かなりの高さだが、行くしかない!


「待って……レヴィアたんも行く! レヴィアたんを操っていた奴……許せない」

「レヴィア。気持ちは分かる。だが、全力の魔法を放ち、ふらふらのレヴィアを連れて行くわけにはいかない……というか、トゥーリアからもらった薬は俺の腕が翼になるはずだから、抱きかかえて飛ぶ事は出来ないんだ」

「大丈夫。レヴィアたんがアレックスにしがみ付いて……」


 そう言って、レヴィアが俺の身体に抱きつくが、俺が支えていなければ、ずるずると下に落ちて行く。

 流石にこの状態で、空を飛ぶなんて無理だろう。


「アレックス。ならば、我が代わりに行くのじゃ。レヴィアのように強力な攻撃魔法は使えぬが、我の結界は役に立つはずなのじゃ! 我なら、アレックスにしがみ付いて居られるのじゃ」

「いや、ミオにはレヴィアたちを守って欲しい。船ではラヴィニアが待機しているし、レヴィアはこの状態だ。この辺りは魔物も現れるしな」

「むぅ……し、仕方ないのじゃ。だが、アレックスよ。相手はレヴィアの魔法をも防ぐような強力な相手なのじゃ。心して行くのじゃ」

「あぁ。もちろん油断はしないさ。必ず玄武を連れて帰って来るよ」


 俺は、懐からトゥーリアにもらった身体の一部が変身する薬を取り出すと、一気に飲み干した。

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