挿話131 イービルスキルを与えられるダークナイトのローランド

「出たな! ダークナイトめ! 俺たち勇者パーティ『円卓の冒険者』がお前を倒し、この地に平和を……ぐはぁっ!」

「ゆ、勇者っ!? 大丈夫かっ!? こ、こいつ……まだ名乗りを上げている途中なのに、斬りやがった!」

「……うるさい。死ね!」


 俺の七人の天使を勇者に殺され、七十七人の勇者を殺すと誓い……これでやっと七人目か。

 自ら最前線に来ているのだが、中々冒険者パーティに遭遇しない。


「い、いやっ! 助け……」

「黙って死ね」


 勇者ではない、プリーストらしき女の首を刎ねたところで、聞いた事のない男の声が聞こえて来た。


『お前は、神に仕える聖職者を二十人殺した。褒めてやろう』

「誰だ。俺は今、機嫌が悪い。楽に死にたければ、今すぐ姿を現せ」

『はっはっは。まぁそう言うな。さっきも言っただろう。お前を褒めてやっているのだ。そんなお前に、この俺が力を与えてやろう。何を望む?』


 何だ、この声は。

 俺の憎悪を平然と受け流す……いや、憎悪を受け止め、自ら取り込んでいるかのような気になる。

 ありとあらゆる悪を凝縮したような、聞くだけで相手の心を潰しかねない声だ。


『あぁ、心配するな。何も対価なんて求めないさ。俺としては、新たに与える力で、更に聖職者を殺して欲しいだけだ』

「……望むものなどない。今の俺の力で十分だ」

『ふふ……果たして本当にそうかな? 怒りに燃えるお前は、今その衝動を破壊に向けている』

「何が言いたい。言っておくが、俺はこのまま勇者を殺し続け、その骸が七十七体になったところで、怒りは解けぬ!」

『そういう事じゃねーんだがな。まぁ百聞は一見に如かずだ。お前にイービルスキル≪隷属(弱)≫を与えよう』


 謎の声がそう言った直後、俺の周囲を闇が覆う。

 慌てて避けようとするが、何故か身体が動かず、その闇が……俺の身体の中に入ってきた!


「こ、これは……な、何だ!?」

『その隷属(弱)は、頭の固いお前に俺の力を理解させる為のお試しスキルだ。だから、効果は弱にしておいた』

「な、何を言っているんだ!?」

『お前は毎日、勇者や聖職者を殺した後、家に帰って少年に性欲をぶつけているだろう。だが、どれだけ吐き出しても、あの少年は心が折れず、お前に懐かない』

「ぐっ……何故、知っている!」


 あのゴミみたいな勇者たちに、天使ちゃんと執事たちを殺され、今の俺にはあの元勇者の少年しか居ない。

 しかも、心が折れずに逃げようとするから、毎回鎖に繋いで牢屋に入れてから、勇者探しをする羽目になっていた。


『本来の隷属スキルは、触れた相手を隷属状態にするのだが、効果を弱にしているから、お前が子種を体内に吐き出した相手を隷属状態にする。まぁ試してみろ』

「お前は一体何を……おい! 聞いているのか!?」


 あの邪悪な気配が消えたため、おそらく何処かへ行ってしまったのだろう。

 だが、イービルスキルとは一体何なのだ?

 隷属(弱)とは……まぁ、とりあえず陽が沈み始めたし、今日は引き上げるか。

 剣に付いた血を殺した勇者の服で拭うと、馬に乗って屋敷へ戻る。

 屋敷には出迎えてくれる者はおらず、そのまま地下牢へ。


「ま、またアレをする気なの!?」

「ふっ、本当は喜んでいるくせに」

「違うっ! 拒んだら、食事どころか水すら与えないか……らっ! うぐぅ……」


 まったく。この少年は身体つきや肌の質は良いのだが、いつまで経っても反抗的なのがな。

 ……あぁ、そういえば、この少年も元勇者だったか。だから、心が折れないのかも……なっ!


「うぁぁっ! また中に……あっ! あぁぁぁ~~~~っ!」

「ん? どうした? いつもは中々達しないくせに……?」

「……ご主人様。どうぞ、もっとお使いください」

「あ、あぁ」


 突然、少年の話し方や雰囲気が変わった。

 何も言わなくとも、俺が動き易いような姿勢になったり、俺の意を汲み取って自ら動いたり。

 それに、断固として拒否していた、終わった後の俺のお掃除を自らし始めた?


「なるほど。これが隷属スキルの効果か。あの声は、俺が破壊の力を持つものの、人を支配する力を持っていないと言いたかったのか」


 今になって考えると、水の四天王に仕える際に、勇者パーティを十五組潰している。

 おそらく、その時殺した聖職者も二十人にカウントされているのだろう。

 イービルスキル……素晴らしいじゃないか。

 次は何人殺せば、新たなスキルをくれるんだ?

 ふふふ……殺しまくってやろうじゃないか。

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