第575話 本気のレヴィア

「そうだ、サマンサ。誰か風魔法を使える者は居ないだろうか」

「風魔法? それならチェルシーが使えるはずだが……どうかしたのか?」

「いや、第一魔族領が黒い雲の中にあると聞いたから、風魔法で雲を吹き飛ばせないかと思って」


 サマンサに教えてもらい、早速チェルシーと話してみたのだが、


「雲を吹き飛ばすなんて無理ですよー! メチャクチャ強力な魔法でないと」

「そうなのか?」

「はい。雲までかなりの距離がありますからね。まず届かないです」


 絶対に無理だと言われてしまった。

 ならば魔力の高そうな者……という事でリディアにも聞いてみたが、風魔法は使えるものの、雲を吹き飛ばすような事は無理だと。


「ミオや天后はどうだろうか」

「むぅ……我自身は風魔法を使えぬのじゃ。召喚で白虎が現れれば良いのじゃが、誰が現れるか……」

「私も風魔法は得意としていませんね」


 ミオは……誰が来るか分からないから、あまり使いたくはないな。

 シェイリーが来てくれたら、空を飛んで皆で一気に移動出来そうではあるが、そもそも第一魔族領がどこにあるか分からないという問題解決にはならない。

 やはり先ずは第一魔族領を探す方法を考えなければ。


「……ん。おはよ。アレックス、何の話?」

「おはよう、レヴィア。強力な風魔法を使える者を探して居るんだ」

「何故?」

「あぁ、第一魔族が雲の中にあるという話があっただろ? だから黒い雲を見つけたら、風魔法で吹き飛ばして、魔族領があるかどうか確認しようと思ってな」

「……風魔法じゃなくても良いんじゃない? それくらいなら、レヴィアたんが出来る」

「えっ!? そ、そうなのか?」


 眠っていたレヴィアが目を覚ますと、雲を吹き飛ばす事が出来るというので、早速お願いする事に。

 早速サマンサの家を出て空を見上げると、西側に黒い雲が見える。


「レヴィア。あの雲を吹き飛ばせるのか?」

「あれくらいなら余裕。けど、村からは離れた方が良い」


 レヴィアの言葉に従い、二人で村から出て暫く歩くと、周囲に何も無い平地までやって来た。


「ここなら大丈夫。アレックス、レヴィアたんを支えて」

「ん? こんな感じか?」

「おっけー! ずっと支えてて……」


 そう言って、しゃがみ込んだ俺にもたれかかったレヴィアが、口を閉ざす。

 何というか、集中している感じがする。

 あと、俺には魔力の流れなんてものはわからないが、何となくレヴィアが魔力を練っているというか、力を貯めている気がするな。

 そして、暫くした後、突然レヴィアが黒い雲に向かって両手を突きだす。


「≪アクア・バレット≫」


 レヴィアの言葉と共に、巨大な水の弾が凄い速さで飛んで行く。

 黒い雲の真ん中を貫き、更に上空へ。

 レヴィアが放った水の弾が通過した箇所は、黒い雲に大きな穴が開き、青空が覗いている。


「……というか、もの凄いな」

「言った通り。風魔法が使えなくても、雲くらい吹き飛ばせる」

「確かにその通りだな。だが……大丈夫なのか? かなり辛そうだが」

「魔力を凝縮させるのが疲れる。そのまま水柱を出す方が楽」


 レヴィアによると、以前に崖を崩壊させた水の柱を溜めて、一気に出すイメージらしい。

 ひとまず、レヴィアが雲を吹き飛ばせる事もわかった。

 後は、空に浮いている黒い雲をひたすら当たっていくだけだな。


「……って、本当に大丈夫か?」

「……アレックス、抱っこ」

「わかった。辛そうだしな。……これで良いか? 一旦、村へ戻るぞ」


 レヴィアを抱きかかえると、一旦アマゾネスの村へ戻る事に。

 すると、リディアやミオ、天后たちに出迎えられる。


「アレックスさん! 先程の巨大な魔力は、レヴィアさんですか!? 何て危ない事をするんですか!」

「アレックスよ。竜人族が本気で魔力を貯めるのはどうかと思うのじゃ。あんなもの、我の結界でも弾けぬのじゃ」

「アレックスさん。あんなに強力な魔力を一度に放つと、周囲で眠る別の何かが反応してしまう気がするのですが」


 えーっと、それぞれ魔力を感知出来る三人が、怒っていたり呆れていたりするのだが、もしかしてこのレヴィアの魔法で雲を吹き飛ばすという方法は、あまり良くないのか?

 とはいえ、他に代替案も無いんだよな。

 と、とりあえず、この方法は周囲に村や街が無い場所でする事にしようか。

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