第868話 白い鳥

 白い鳥が……太陰のもう一つの姿が迫ってくる。

 太陰が必死に呼びかけているが、白い鳥は止まらない。

 白い鳥は太陰の魔力だという話だが、攻撃しても大丈夫なのだろうか。

 しかし、そんな中でデイジー王女が冷静にアレを抱きかかえ……こんな時にっ!


「くっ! ……えっ!?」


 デイジー王女が狙い定めたのか、白い弾が鳥の口に直撃すると、鳥の姿が弾け、無数の白い粒となって、太陰の周りに集まり……身体に吸着していく!?


「凄い……魔力が戻ってくる! しかも、アレがいろんな所から、中に入ってきて……口からのは美味しいっ! ……けど、そこはさっき分身さんに沢山もらったから、もう一杯で入らないよー!」

「ううむ。我もアレックスのそれは好きじゃが、どうせ体内に入れるなら、直接出して欲しいのじゃ。とりあえず、何処かで洗い流すのじゃ」

「ううん。自分で舐めとるからいいよー。私、この味も香りも好きだもん。たぶんだけど、私の魔力もこれが凄く好きで、直接貰える姿になりたいと思ったんじゃないかなー。流石にあの姿では、直接もらえないだろうし」

「なるほど。アレックスのアレを味わったが故か。確かに、戦いよりもこちらの方が良いのは自明の理なのじゃ」


 ひとまず、白い鳥は完全に太陰と融合したようで、残ったのは太陰の全身に付いたアレくらいだろうか。

 太陰が顔を拭っては、その手を舐めているが……ってマズい!

 再びアレが出そうだが、この向きだと少女姿の太陰に直撃してしまう。

 デイジー王女が抱きかかえて離してくれないし……


「デイジー王女。失礼します」

「はい? きゃっ!」


 慌ててデイジー王女を抱きかかえ、誰もいない方角へ身体を向けると、アレが発射される。

 ギリギリ誰にも当たらず、無事に街の上へと飛んでいった。

 しかし、これはいつ治るんだ?


「れ、レックス様。この槍の上に跨ると、なぜか凄くドキドキします」

「あっ! す、すみません。すぐに降りてください」

「いえ、出来ればこのままが良いのですが、ダメでしょうか?」


 緊急回避とはいえ、とんでもないところへデイジー王女を乗せてしまった。

 とりあえず、フョークラを呼ぶという意味を込めて分身を解除して待っていると、デイジー王女が何かに気付く。


「た、大変です! く、黒いドラゴンが!」

「えっ!? あ……いえ、あれは我々の仲間ですので、ご安心ください」

「そ、そうなのですか」


 デイジー王女が怯えたように、俺に抱きついてくるが……とりあえずアレから降りてくれないだろうか。

 ……っと、フョークラの薬の効果が切れたのか、槍のような長さだったのが、元に戻る。

 だが逆に、今の状態だとマズい!


「……っ!? れ、レックス様!? この感覚はなんでしょうか。槍の先端が……」

「で、デイジー王女! 我らの仲間、黒きドラゴンが挨拶したいと申しております。降りましょう」

「え? は、はい」


 王族故か、挨拶したいと言うと、慌てて俺のアレから降り、凛とした姿で立つ。

 危ない。助かった……と、安堵していると、黒いドラゴンが地面に降り立ち、二十代半ばといった感じの、黒髪の女性に姿を変えた。


「オティーリエ……で良いのか?」

「アレックス! 私の姿が見えるのっ!?」

「あぁ。良かったな」

「うんっ! ……ところで、その仮面は?」

「いや、その……いろいろあったんだよ」


 本当にいろいろあった。

 あと、デイジー王女をどうするか考えなければならないのだが、それよりも今は先にこっちだな。


「太陰。では、何があったか教えてくれないか?」

「この少女は魔力からして、さっきの鳥よね? いきなりケンカを売られたんだけど」

「すまぬのじゃ。身体と魔力が分離され、かつその身体が地下に封印されておったのじゃ。何かしらの理由があるはず……太陰よ。今度こそ説明してもらうのじゃ」


 オティーリエが太陰から距離を取り、ミオが太陰を促し……


「あ、あの。挨拶とは?」


 デイジー王女が困惑した様子で俺を見上げてくる。

 ……すまない。俺のアレから降りてもらう為の方便だったんだ……とは言えず、皆で太陰の話を聞く事にした。

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