第869話 太陰の社
ミオに促され、太陰がゆっくりと言葉を紡ぐ。
「実は……何が起こったのかは正確にはわからないの」
「どういう事なのじゃ?」
「私たちとは違う力……気を使う者が接近してきたのは覚えているの。だけど、気付いた時にはお兄さんのを飲んでいたの」
「なんと! それはいつ頃の話なのじゃ? 今の日付は……」
「それなら、もう数年前の話ね」
数年前!? 太陰は数年間も結界に閉じ込められていたのか!
「ふむ。数年前に何があったのかはわからぬが、一つ気掛かりな事があるのじゃ」
「ミオ。何かひっかかる事があるのか?」
「うむ。アレックスよ。あの世話になった変態椅子の母娘が言っておったであろう。メリナ商会が数年前から急に大きくなったと」
変態椅子? ……もしかしてレイチェル母娘の事か? 俺の分身の上に座りながら食事を取っていたし。
ただ、ミオも同じ様に俺の上に座って朝食を食べていたが。
「……あ。ここはザガリーの屋敷だと言っていたな」
「詳細はわからぬが、神である我らに対抗しうる、気の力を使う何かが黒幕として存在するという事か!?」
「おそらく。この屋敷を探しても、太陰の封印しか見つからなかったから、ザガリーを捕らえて吐かせるのじゃ!」
確かに、この広い屋敷を再び探した所で何も見つからない気がする。
マリーナが触手を使ってすみずみまで探索してくれたはずだからな。
ただ、ザガリーが黒幕について素直に話すだろうか。
いや。だが、何かしら手掛かりはあるはずだ。
太陰も騰蛇や天后と同様の力を持つ神のはず。
その太陰を封じる事が出来る程の者を放置出来ない。
「あの、その前に一つだけお願いがあるのですが、よいでしょうか」
「太陰よ、どうしたのじゃ?」
「この家の地下に、私の社があります。これが地下に隠され、更に人が来ないようになっているので、人間からの信仰が無く、力が得られないのです。どうか、この上の屋敷を取り除いていただけないでしょうか」
「なるほど。しかし、それは中々に時間が掛かりそうなのじゃ。ザガリーとやらも捕まえなければならぬし……」
「そうですか。では、信仰の力がなくても消滅しないように、暫くはそちらのお兄さんに魔力を分けていただきたいのです。地下の時と同じ様に、上と下と後ろの三か所から同時に飲ませていただけますと……」
ミオと話をしていた太陰がとんでもない事を言い出したので、慌てて口を塞ぐ。
「お、オティーリエ。すまないが、この屋敷を破壊してくれないか?」
「え? まぁそれくらい構わないけど……それより、私が居ない間に楽しんでいたみたいだし、後でちゃんと私も満足させてね」
「う……わ、わかった」
「そういう事なら、任せて。サクッと更地に……あ、地下の社は壊さず綺麗にしておくよ」
まぁオティーリエなら、ブラックドラゴンの姿になれるし、屋敷を破壊するくらい大丈夫だろう。
人は誰も残っていないようだし、おそらく太陰の社がある事をわかった上で、あえてここに屋敷を立てたみたいだしな。
「あの、私が知らない内に、何か楽しい催しがあったのでしょうか? レックス様と一緒に楽しむ事が出来る催しがあるのでしたら、私も参加したいのですが」
「あのねー! さっきの槍みたいなのを使って、すっごく楽しくて、美味しくて、気持ち良……」
「オティーリエの言っている楽しむというのは、武闘大会の事なんだ。拳と拳で語り合い、流す汗が気持ち良いというものだから、デイジー王女には少し難しいかと思うんだ」
デイジー王女がオティーリエの言葉の意味をそのまま受け取り、更にマリーナが困った事を言おうとしたので口を塞ぎ……って、さっきから俺は口を塞いでばかりじゃないか?
皆、不用意な事を口にし過ぎなんだよ。
あと、マリーナは口を塞がれているのに、俺の手を舐めたり甘噛みしたりしないでくれ。
「では、オティーリエ。すまないが、ここは任せた。俺たちはザガリーを捕らえてくるよ」
太陰はまだ力が万全ではなく、社から遠くには行けないという事なので、ミオと共に地下でデイジー王女を守ってもらう事に。
という訳で、マリーナとフョークラと共に、ザガリーのところへ向かう事にした。
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