第870話 ロマン
「フョークラ。ザガリーが何処に居るかわかるか?」
「ごめんなさい。結婚式が中止になって、騎士団が血眼になってレックス様を探している事は知っているのですが、ザガリーの居場所は分からないです」
マリーナをおんぶしながら走り、ひとまず結婚式場の様子を見に行く事に。
流石にザガリーがまだ残っているとは考え難いが、屋敷があの状態の為、他に行く場所が思いつかない。
「ねーねー、怪盗レックスー! 怪盗フォークー! せっかくマリも怪盗リーナになったしー、チーム名を決めようよー!」
「え? チーム名? いや、要るのか?」
「必要だよー! 怪盗として後世まで名を残すんだもん! カッコいい名前じゃないと! 三人だし……例えば、チームケルベロスとか!」
えぇ……というか怪盗としての名は残したくないんだが。
「はい! 私は三人なので、スリーピーが良いと思います! それか、アレックスと淫らな女たち……とか」
「そ、それならスリーピーかな。後者は普通に俺の名前が出ているし」
「じゃあマリたちの名前は、スリーピーに決定! ……けど、スリーは分かるけど、ピーって何なのー?」
俺も分からないので、発案者のフョークラの言葉を待っていたのだが、答えが出てくる前に式場がある場所が見えてきた。
だがフョークラの情報通り、騎士たちも居るので道を変えようとすると、マリーナから待ったが掛かる。
「レックスー! 違うよー! こういう時の怪盗はねー、屋根の上を走るんだよー!」
「えっ!? いや、パラディンの俺に敏捷性を求められても困るのだが」
「えぇーっ!? 怪盗っぽく……そうだ! 怪盗と言えば、アレだよねっ! フォーク!」
何だ? マリーナの言葉で、フョークラが大きく頷いた。
そのまま、フョークラが大きく開いたレオタードの胸元に手を入れ、何をするのかと思ったら、黒くて丸い何かを二つ取り出し……って、まさか!?
「怪盗フォーク! 行きますっ!」
「むっ!? あの仮面は……デイジー様を攫った怪盗レックスと同じもの! 体型からして女だが、奴の仲間か!?」
「ふふふっ、それは後で分かりますよ。では、怪我したくない人は逃げてください……ねっ!」
あぁぁぁっ! 投げたっ! フョークラが、あの黒い何かを投げ……轟音と共に爆発したっ!
「やっぱり爆発物だったかっ!」
「流石はフォーク! よく分かってるー!」
「えぇ! やはり怪盗たるもの、爆弾よね!」
フョークラは毒だけでなく、火薬まで作れるのか。
いや、感心している場合ではない。
重傷者はいないだろうか。
「あ、レックス様。大丈夫です。音と煙に全振りしている火薬なので、殺傷能力は皆無です。実際、街も一切壊れていないかと」
「それよりレックスー! 早く、今の内にこの煙の中を突っ切ろうよー! 煙の中から颯爽と現れる……これぞ、怪盗だよーっ!」
「ですよね! 流石は怪盗リーナ! 理解が完璧です」
いや……うん。もう何も言うまい。
マリーナとフョークラが何に影響され、怪盗にどういうイメージを持っているかは知らないが、とにかく進もう。
ザガリーを捕らえなければ。
それから何度かフョークラが胸元から爆弾を取り出し……いや、レオタードなのに、どうやって中に爆弾を仕込んでいるんだ?
訳が分からなかったが、よくよく見てみると、爆弾を投げる度にカバンから新たな爆弾を出して胸元に補充して……
「フォーク。その……もうカバンから直接取り出して投げれば良いんじゃないか?」
「レックス様。ダメですよ。怪盗とはロマンが重要なのです」
「そうそう! マリとしては、本当はレックスにはカードを武器にしてもらいたかったんだよねー! けど、カードを握ったまま殴っちゃいそうだし、体術を駆使する怪盗もアリだから、そのままにしたけどねー!」
よく分からないが、そのロマンの為に、わざわざマリーナも紺色のレオタードに着替えたのだろうか。
……いや、マリーナの場合はフョークラと違って、レオタードというより水着に近い気がするが。
そんな事を考えているうちに騎士たちを突破し、式場へと戻ってきた。
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