第871話 ザガリーの手下?

 式場の中は、俺たちが潜入していた時と大きく異なり、誰もいない静かな場所となっていた。

 だが……姿は見えないが居るのはわかる。


「余り隠れるのは上手くないようだな。……十人か。≪ディボーション≫」

「流石はレックス様です。では早速、爆弾を……」

「フォークー! こういう室内は爆発よりも睡眠薬の方がスマートだよー!」


 隠れているつもりの者たちに声を掛けたら、フョークラとマリーナが謎の言い合いを始めてしまった。

 ひとまず、二人にパラディンの防御スキルを使用したので、ダメージは俺が肩代わり出来る。

 なので二人はさておいて、隠れている者たちを何とかしようと一歩足を踏み出すと、隠れていた一人が出てきた。

 攻撃の気配がなく、不意打ちを仕掛けるつもりもなさそうなので、まずは話を聞こうとして……って、ちょっと待ってくれ!


「ブレア!? 何をしているんだ!?」

「……」


 ブレアが無言のまま剣を抜き、一気に距離を詰めてくる。


「おい、ブレア! 待て!」

「……」

「リーナ、一旦離れてくれ! ブレアは本気だ!」


 慌ててマリーナが俺の背中から降りる一方で、ブレアは俺の言葉に表情一つ変えず、無言のまま剣を横に薙ぐ。

 これは……くっ!


「……≪ホーリークロス≫」

「≪ホーリークロス≫っ!」


 ブレアと俺が互いに十字の斬撃を放ち……相殺された。

 俺の知っているスキルだから良かったが、そうでなければ、こんなにも綺麗に打ち消せなかっただろう。


「えっ!? レックス様の剣と互角!? 嘘でしょ!?」


 フョークラが驚くが、ブレアに剣を振るう事を躊躇ってしまったのと、ブレアの剣のキレが普段よりも数倍鋭い。

 俺とは違い、本気で……殺す気で剣を振るっているし、いつものブレアとは違って防御や回避を一切考えずに、攻撃に全ての力を注いでいるように思える。


「フォーク! ブレアの様子が変だ! 何か薬で解除出来ないか!?」

「わかった! 少し待って!」


 フョークラが何かを取り出そうとしたところで、式場の一番奥にザガリーが姿を現した。


「ふはははっ! 無駄だっ! お前たち! 後ろの女が何かしようとしているぞ! 殺せっ! ……いや、顔は仮面でわからぬが、身体は悪くない。死なない程度に痛めつけろ!」


 隠れていた残りの八人が一斉に姿を現し、剣で打ち合う俺とブレアを避け、後ろのフォークラとマリーナに迫っていく!

 何とかしなければならないのだが、攻撃と速度が数段向上し、防御がおろそかになっているブレアが俺に攻撃し続けて来る。

 防御を一切考えていなさそうな攻撃の為、少し誤れば、大怪我を負わせてしまいそうで、本気で攻撃出来ない。

 フョークラたちのダメージは俺が肩代わり出来るが、連れ去られたりするのはマズい!

 だが、そんな俺の心配を他所に、フョークラが何かを投げた。


「えーい! レックス様は平気だよねー?」

「まさか、今のって……」

「うん。爆弾」


 いや、せめて睡眠薬の方にしてくれっ!

 慌ててブレアに接近すると、


「悪く思わないでくれ」

「……」


 ブレアの剣を全力で弾き飛ばす。

 ブレアの手から離れた剣が宙を舞い……自身の手から剣が無くなった事にようやく気付いたブレアが、飛ばされた剣を茫然と眺める。

 その直後、俺の背後から轟音が聞こえ、強い衝撃に襲われる。


「……」

「ブレアっ!」


 ブレアが宙に浮く剣を取ろうと跳び上がり……吹き飛ばされたっ!

 普段のブレアなら、こんな事はしないはずだが、状況把握が出来ていないというか、判断がおかしいっ!

 この爆風に飛ばされたら壁に激突するっ!

 ブレアに向かい、爆風に乗って跳び、手が……届いたっ!

 ブレアの足に指先が届いたので、指を足に掛け……


「うぉぉぉっ!」

「……」


 爆風の中でブレアを引き寄せて抱きしめると、空中で態勢を変え、目の前に迫る壁からブレアを守る。


「くっ!」

「この香りは……?」


 爆風が収まると、ブレアが言葉を発した!?

 今の衝撃でブレアに何かが変化があったのだろうか。

 しかし……


「ふっ! 甘いわっ! 神器の力を見せてやろう!」


 ザガリーが何かを取り出した。

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