第872話 神器

 ザガリーが背後から長い棒の様なものを取り出した。

 あれが何かはわからないが、


「れ、レックス様! 逃げてください! 何か凄く嫌な予感がします!」


 離れた場所でフョークラが叫ぶ。


「ふはは、もう遅いわっ! 王笏よ! 女どもを支配せよ!」

「……っ!」


 ザガリーの言葉で、腕の中にいるブレアがビクンと身体を跳ねさせる。

 何だ!? まさか、ザガリーの言った言葉が本当に……


「ふっふつふ。女に対してしか使えぬが、この神器を使えば、ワシの前では全ての女が操り人形となる。そこの褐色の女。こっちへ来い。それから、お前はその男を殺せ」

「……」

「……」


 倒れていたフョークラがゆっくりと起き上がり、虚な表情でザガリーに向かって歩きだす。

 その一方で、ブレアが至近距離で俺に肘打ちを放つ。

 体重が軽いのと、密着していていた為か、殆どダメージはないので、このまま逃がさないように抱きしめ続ける。

 だが、暴れるブレアを抑え込んでいるものの、フョークラはザガリーに向かっていく。


「くっ! フョークラを何とかしたいが、ブレアが……」

「無駄だ! 神器の力は絶対だ。お前ら如きが破れると思うな」


 ザガリーがニヤニヤと笑みを浮かべ……だが、決して俺には近付かずにフョークラが向かってくるのを待つ。

 フョークラを止めている間にブレアが剣を拾うのも困るが、かといってこのままでもダメだ。

 どうすれば……と思っていると、


「ねーねー。マリは何ともないんだけどー?」

「ん? あぁ、言っただろう。これは女にしか効かぬ。ガキに用はないのだ。ただ、そうだな……三年後なら、ワシの妾にしてやっても良いぞ」

「マリは立派なレディなのにー! レックスー! あのオジサンがいじめるーっ!」


 そう言って、マリーナが俺の所へ走ってきた。

 というか、マリーナは支配されていないのか!

 ザガリーの手下たちはフョークラの爆弾で倒れているし……


「リーナ! フョークラを止められそうか!?」

「えー……うーん。無理ー! けど……そうだ!」


 フョークラの腕を取り、逆に引っ張られていたマリーナが、早々に諦めて俺の所へ。

 まさか、マリーナがブレアを抑えるつもりなのか!?

 今は俺が腕力で抑え込んでいるが、フョークラよりもブレアの方が大変だぞ!?


「リーナ……」

「いっくよー! えーいっ!」


 近寄ってきたマリーナが、俺の背後に回り込み……ズボンを下ろしたっ!?


「……んっ、この香り! どうして? アレックス殿と同じ香り……」

「はいはーい。仮面を取るから良く見てねー!」

「……アレックス殿ぉぉぉっ!」


 ブレアがそう言って俺の胸に顔を埋めてきた。

 えっと……何がどうなっているんだ!?

 ……って、おい。ブレアは変な所を触らないでくれ。


「な、何故だっ!? 何故、支配の王笏の力が打ち破られたのだ!?」

「ふっふーん! そんな訳のわからない棒よりも、レックスの棒の方が凄いに決まってるじゃない!」

「うむ。この芳醇な香りと濃厚な味わい……至高だ」


 もう大丈夫かと思って力を抜いたら、その瞬間にブレアがその場にしゃがみ込む。

 いや、そんな事をしている場合ではないのだが……そうだ!


「≪分身≫」

「なっ!? 増えた……だと!?」

「フョークラを止めるんだ!」


 ブレアを抑え込む必要がなくなったのと、すっかり失念してしまっていたが、分身スキルを使用し、フョークラを止める。

 マリーナの腕力では止められなかったが、俺の力なら余裕で止められた。

 分身に指示して、フョークラを俺の近くへ連れてこさせると……いや、フョークラまで何をしているんだよ。


「レックス様! あの力は本物です! レックス様の香りを嗅げなければ、危ないところでした」

「みんなずるーい! マリもするのー!」

「ふ、ふざけるなよっ! 幼過ぎると思ったその青髪の幼女にまで手を出して……お前ばっかり良い思いをするなぁぁぁっ! その幼女を寄越せっ!」


 マズい! だから、こんな事をしている場合ではなく、早くザガリーを何とかしなければならないというのに、ブレアが離れてくれない。

 分身はフョークラとマリーナと……もう一体出すべきか!?


「……な、何故だ! これは神器なんだぞ!? あの神獣すらも支配下におけたのに! 何故効かないんだっ!」

「なるほど。やはり太陰をあんな状態にしたのはお前か。この外道め!」

「お前が言うなぁぁぁっ! 俺も混ぜろぉぉぉっ!」


 意味不明な事を言いながらザガリーが迫ってきた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る