第873話 支配の王笏

「支配の王笏よ! ここに居る女どもを支配せよ!」


 先程と同じ様に、ザガリーが神器だという杖のようなものを掲げるとブレアたちが……何も変わらず、俺から離れない。


「な、何故だっ!? 先程は効いたではないかっ!」

「だから、さっきも言ったのにー。そんな変な棒よりも、レックスの棒の方が凄いもん」

「そこの幼女! 今度は、さっきとは違って、お前をガキではなく、一人の女として扱ったというのに、どうして効かないのだ!」

「さぁ? そんなのマリに言われても知らないよー」


 ザガリーの狙いはマリーナだったようで、俺の分身と一緒に居るマリーナに向かってゆっくりと近寄ってきている。

 依然としてブレアに抱きつかれて動けないが、ザガリーも油断している今がチャンスだ!


「≪閉鎖≫」

「む!? ふん! この程度の結界術でワシを止められるとでも思ったか!」


 ザガリーが手にした杖を振ると、ミオからもらった結界スキルが砕け散る。

 フョークラがおかしくなった事を含め、あの杖の力は本物のようで、ザガリーが俺を警戒して再び距離を取ってしまった。


「ふっ! さっきからその幼女が変な棒のようなものを舐めているが、どうせならもっと旨いものを見せてやろう。どうだっ! 舐めても咥えても旨いぞ」

「……? 何も無いよー?」

「ふっふっふ。イイ! イイぞ! これを見ても何かわからぬ無知っぷり……やはり幼女はそうでなくては」


 俺から離れた場所へ移動したザガリーが、しきりにマリーナへ何かを見ろと言っているが……何をしているんだ?

 俺の位置からは見えないが、見ると何らかの状態異常を受けるようなものだと困る。

 早く何とか……とりあえず、ブレアを止めさせよう。


「ブレア。一度離れてくれ」

「レックス様。それは、お止めになった方が良いかと。私も受けてしまったのでわかりますが、レックス様のを常に嘗め、その濃厚な香りをいただいているので正気でいられます。しかし、それが無くなってしまったら、また意識を失ってしまうかもしれません」

「くっ! しかし身動きが……」

「私にお任せください! リーナ! ハッキリ言ってあげなさい! レックス様のと違って、小さ過ぎて見えないと!」


 何だ? 何が起こっているんだ!?

 ひとまず、もう一体分身を出して、ブレアには分身のところへ行ってもらおう。


「≪分身≫」

「……あ、そういう事だったんだー! オジサン。丁度今、分身さんが現れたし、見比べてみれば良いんだよー! ほら、これだよー!」


 分身をブレアのところへ連れて来る前に、マリーナが触手で分身のズボンを下ろす……って、何をやっているんだよ。

 そんな事より、早くザガリーを何とかしなきゃいけないのに……ん? ザガリーが突然うずくまった?


「な、何だと!? そ、その男は……そ、そうか。巨人族の子供なのか! は、はっはっは。驚かせるな」

「ううん。レックスは人間族だよー」

「そ、そんなバカな! そんな丸太のような大きさな訳がない! これは、ウソだ! 幻だ!」

「ウソでも幻でもないよー! マリも好きだし、デイジーちゃんも美味しいって言ってたよー!」

「で、デイジー王女にまで……ま、まさか、今までワシが多くの幼女を悦ばせてきたと思っていたのは、支配の王笏による力であって、本心ではなかったのか!?」

「よく分かんないけど、そんな小さいのだと、無理じゃないかなー?」

「そ、そんなぁぁぁっ!」


 えっと、マリーナは何の話をしているんだ?

 ただ、何をしているのかはわからないが、ザガリーから発せられていた殺気が消えている。

 マリーナによってズボンを下ろされた分身を呼び寄せ、ブレアをそちらへ。

 ようやく自由に動けるようになったので、うずくまるザガリーの傍に落ちている支配の王笏という物を、剣で真っ二つに斬ると……黒い塵のようになって消えていく!?

 まるでシャドー・ウルフを倒した時のような……って、ザガリーまで塵になっていないか!?


「お、おい、ザガリー!? お前には聞きたい事が……」

「わかっている。ワシが愛でた幼女たちは、別荘に匿っておる。お前なら、きっと彼女たちも幸せにしてくれるだろう」

「何の話だっ!? おい、ザガリーっ!?」


 最後まで意味不明な事を言うザガリーが、支配の王笏と共に黒い塵となって消滅してしまった。

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