第867話 砲撃

 太陰の魔力を回復させる為に、分身スキルを使用する事になったのだが……流石にデイジー王女の前でそんな事をさせる訳にはいかない。

 という訳で、俺はデイジー王女と共に地上へ残り、太陰やフョークラ、マリーナには地下へ戻ってもらった。


「……≪分身≫」

「レックス様。今、何か仰られました?」

「いや、何でもありません。気になさらないでください」


 小声で分身スキルを使用し、先ずは全ての分身を太陰たちと共に地下へ移動させる。

 後は自動行動で頑張ってもらう事にした。


「……あれ? ミオは地上に残ったんだな」

「当然なのじゃ。アレックスのは確かに欲しいのじゃが、今は太陰を何とかせねばならぬのじゃ。後で、じっくりたっぷり貰うのじゃ」


 正直なところ、俺にはオティーリエも、太陰の魔力というのも見えないので、ミオが残ってくれているのは正直助かる。

 最悪、何かあったとしても、ミオにデイジー王女を預けて俺が動く事も出来るしな。

 だが、そんな事を考えている内にも、太陰たち三人がかなり頑張っているようで……えっ!?


「れ、レックス様!? い、今のも聖なる槍の御力なのでしょうか。白い弾丸が、槍の先端から凄まじい速さで飛んでいったのですが」

「……そ、そうなんです。今のは、その……聖なる魔力弾なんです」

「凄いです! レックス様の大きな槍は、砲撃まで出来るのですね!」


 冗談抜きにフョークラの薬は大丈夫なのだろうか。

 気の力の増強とやらで、俺の身体がおかしな事になってしまっているのだが。


「あっ! 二射目ですね! 飛距離と弾の大きさから、かなりの魔力を消費する攻撃だと推測出来るのですが、レックス様のお身体は大丈夫なのでしょうか」

「そ、そうですね。魔力が自動回復するスキルをもっているんです」

「なるほど……あれ? 何か……あそこにありませんか? レックス様の聖なる弾が放たれた先……白い何かが宙に浮いて動いているのですが」


 デイジー王女が指さす先を見てみると、青空を背景に、白い何かが確かに動いている。

 あれは……なんだ?


「あ、あれは……デイジー王女よ。手伝ってもらいたいのじゃ。この槍から放たれる弾を、あの浮いている白いものに命中させたいのじゃ!」

「えっと、この槍の照準を合わせれば宜しいのですね?」

「うむ。その通りなのじゃ! 我はもう少し前に出て、位置を確認するのじゃ。デイジー王女は、その槍を頼むのじゃ!」

「わかりました!」


 そう言うと、ミオが白い何かに向かって走っていき、デイジー王女が俺のを両手で抱きかかえ、顔をくっつけて照準を狙う……って、いやあの、両手で抱きしめるのはまだしも、頬をくっつけるのはどうかと思うのだが。


「振動が……第三射! 出ますっ! ……出ましたっ!」

「良い狙いなのじゃ! これは……うむ! 命中なのじゃ! デイジー王女! 我はその弾が早く発射されるようにしてくるのじゃ! そのまま狙い続けて欲しいのじゃ」


 そう言って、ミオが地下へ降りていく。

 いや、待ってくれ!

 こんな状態でどうしろと!?

 だがミオが太陰たちに加勢して、俺の分身たちといろいろし始めたので、早くも……


「レックス様! 第四射……命中です! あっ! もう第五射が……」


 デイジー王女が角度を微調整しながら、白い弾を命中させていく。

 十回程命中したところで、巨大な白い鳥? のような姿が見えている。

 あれは一体……何なんだ!?


「あれは……まさしく、太陰のもう一つの姿なのじゃ!」

「確かに、私のもう一つの姿ね」

「ミオに太陰もいつの間に……って、二人共、せめて服は着てくれ」


 気付いた時には、全裸のミオと太陰が傍にいて……って、フョークラとマリーナはまだ続けているのか!

 また白い弾が飛んで行き、白い鳥に命中すると、


「あれ? こっちを向いてないか?」

「というか、こっちへ向かって飛んで来ているのじゃ! 急いで結界を……」


 俺の言葉で、ミオが慌てて結界を張ろうとする。

 だが、太陰がミオを制した。


「いえ、それには及ばないわ。今なら、私の魔力の方が……あれ? ちょ、ちょっと待って! 向こうの魔力が物凄く増えているんだけどっ!」

「向こうもアレックスのを飲んだのじゃ! だから、魔力が増えておるのじゃ!」

「あ……これ、ダメかも。私の声が……未だに届いてなさそう」


 凄い速さで白い鳥が迫って来て……な、何とかしなければっ!

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