第482話 船の転移スキル

「アレックスー! 凄かった! おかげで、レヴィアたんは元気!」

「そ、そうか。何よりだ……」

「ふふっ。レヴィアは体力回復の為と言い、一人で分身を五体も……随分と張り切っていたのじゃ。ただ、アマゾネスたちは意外に体力がないのじゃ」


 天后のスキルでアマゾネスの村の近くへ移動させられたのだが、レヴィアが体力を回復したいというのと、頑張ったご褒美が欲しいと言うので分身を本気モードに。

 その結果、天后やサマンサを含めて大半のアマゾネスが意識を失ってしまった。

 残っているのは、ヴィクトリアくらいだろうか。


「ふふふ……私は、アレックスさんの正妻を目指す者! モニカに負ける訳にはいかないのですよ」

「ふっ……その発想の時点で、ヴィクトリア殿は既に負けているのだっ! 本質は私との勝負ではない! 如何にご主人様を満足させる事が出来るかなのだっ!」

「くっ……そ、そんな。……わかりました。これからはモニカと……いえ、モニカ師匠の下で、アレックスさんへのご奉仕について修行して参ります」

「わかってくれたか、ヴィクトリア殿! これからは、ご主人様を飽きさせずに満足させ続ける為に、我々に何が出来るかを考えていこうではないかっ!」

「はいっ! 師匠っ!」


 どうしよう。ヴィクトリアとモニカが、それぞれ俺の分身の上に乗りながら、固い握手を……とりあえず、モニカの真似をさせるのは止めようか。

 だが、その前に天后が目を覚ましたので、再び先程の場所――河口へ戻してもらう事に。


「天后。今回はもう構わないが、出来れば転移スキルを使うまでに、もう少し猶予をくれないだろうか。方針を考えている最中に転移されたからな」

「すみません。早くアレックスに会いたくて、気が急いてしまいましたの」


 全員で船に戻り、天后のスキルで転移前の場所へ戻って来た。


「レヴィア、行けそうか?」

「……余裕」


 レヴィアが舐めて貰っては困る……と言わんばかりに水へ飛び込み、海竜の姿となってグイグイ船を引っ張っていく。

 うん。レヴィアが自分で言った通り、回復したら水流など関係なしだな。

 しかし、大きな河を上っていくと、徐々に河を挟む崖が狭くなり、水の流れが激しくなってきている気もする。

 いつまでもレヴィアの体力が持つ訳でもないだろうし、何処かで上陸したい。


「あなた。あそこなんて、どうかしら? 大きく弧を描いているから、内側は流れが緩やかよ」

「わかった。レヴィア! 聞こえるか!? 左側に船を寄せられないだろうか」


 レヴィアが俺の意図した方向へ進んでくれているので、最初に崖を上った時と同じく、リディアに船の先端で精霊魔法を使ってもらい、何とか船を泊める。


「……思ったより大変だった」

「レヴィア、ありがとう。少し休んでくれ」

「……レヴィアたん的には、アレックスのを飲むのが一番の休憩」

「いやその、崖の上の様子とかを見ないといけないだろ?」


 ひとまず、レヴィアたちには船で待機してもらい、俺とニースで崖を斜め上に掘って行く。

 アマゾネスの村の時と同じく、ユーリにも傍に居てもらい、あとどれくらい掘る必要があるのかを見てもらっていると、


「あっ! パパー! ふねがきえちゃったよー?」


 ユーリが驚きの声を上げる。


「えっ!? あー、天后の転移スキルか。まぁ俺が居ないと分かれば、すぐに船も戻って来ると思うから、俺たちはこのまま掘り進めよう」


 念の為に逢瀬スキルでリディアの様子を見てみたが、思った通りアマゾネスたちのところに居て、俺が居ない……とザワザワしていた。

 まぁニースとユーリ以外は全員揃っているみたいだったし、大丈夫だろう。


「パパー。そろそろのうえにでるから、ようすをみてくるねー!」

「あぁ、わかった。気を付けるんだぞ」

「うん。えっとねー、このうえは……えっ!?」


 再びユーリが驚きの声を上げたと思ったら……その小さな身体が、ゆっくりと落下していく。

 何が起こったのかと思ったら、白い翼に矢が刺さっていた。


「ユーリっ! ≪ディボーション≫」


 ユーリが落下していく様子が、スローモーションのようにゆっくりと進んで行き……気付いた時には、俺は崖から飛び出していた。

 傷ついたユーリを空中で抱きしめたところで、


「パパっ!? 待って!」


 目を丸くして驚くニースが……俺に向かって跳ぶ。


「ニースっ! ≪ディボーション≫」


 何とか防御スキルを使用したところで、俺とユーリとニースの三人は、流れの激しい河の中へ落ちてしまった。

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