第481話 振り出しに戻るアレックス

 レヴィアに頼み、北東に向けて出発した。

 天后の話では、大きな河があり、船のまま内陸部に進めるらしいからな。

 とはいえ、レヴィアの大きさでも進めるかどうかは少し心配だが。


「ん? 待てよ。レヴィアは進んでいる……よな?」

「はい。この北の大陸へ向かってくれた時と同じで、凄い速さですよ?」

「そうか。天后のおかげで船が揺れなくなって……というか、全く揺れが無さ過ぎて、止まっているのかと勘違いしてしまったよ」


 よくよく陸地を見れば、リディアの言う通りグングン進んで居るのが分かった。

 しかし、この速さで一切揺れないというのは本当に助かるな。

 これなら、リディアは陸地で過ごしているのと大差ないだろうし。


「天后には感謝しかないな」

「えぇ、本当にそうですね。こうして、アレックスさんと一緒に居られるのですから」


 揺れない船の上でリディアと話している内に、レヴィアが陸地に沿ってどんどん進んでくれるのだが、それにしても北の大陸は本当に上陸出来そうな場所が無いな。

 アマゾネスの村では、リディアの精霊魔法やニースと共に崖を掘って上陸したが、同じ様な崖がずっと続いている。

 ……もしかして、俺たちが居た第三魔族領と同じ様に、ここも魔族が何かしたのだろうか。

 向こうは、地面の上に土を乗せたようだが、こちらは大陸を持ち上げたとか……いや、流石に魔族とはいえ、そんな事は出来ないと思う。というか、思いたい。

 いくらなんでも、そんなに凄い事が出来る敵と戦うのは厳しいからな。


「あなたー! あそこの崖に割れ目があるわ。あそこから、入れるんじゃないかしら」

「ラヴィニア。もう、大丈夫なのか?」

「えぇ。少し気を失っていたけど、もう大丈夫よ」


 アマゾネスの村を出た後、俺の相手をしてくれていたラヴィニアが気絶したのだが、無事に目覚めたようだ。

 ちなみに、今現在もそうなのだが、リディアと話しをしている俺の足下には、ラヴィニアに代わってミオが居て、俺のを……というか、イネスはいつマッサージをしてくれるのだろうか。


 俺の状況はさておき、レヴィアが河に向かって進んで行くのだが……本当に崖の割れ目というか、左右を高い壁に挟まれた河となっている。

 とはいえ、天后が大きな河というだけあって、河と河の間はレヴィアが余裕で泳ぐ事が出来るくらいに広く、深さも十分なようだ。


「……というか、これは河なのか? 向こう岸まで物凄く距離があるんだが」

「そうですね。ここまで広いと、河というより海ですが……確かに、この辺りの水はまだ海水ですね。とはいえ、水の流れからするとこちらは下流になります。水の流れに逆らって泳ぐ事になりますので、どこかでレヴィアさんを休ませてあげていただければと」

「なるほど。そうか、海ではなく河となれば、陸地から流れて来るよな。わかった、ありがとう」


 ラヴィニアの助言を聞き、何処かで流れが緩やかな場所があれば、そこで休憩してもらう事にした。

 だが、大きな河だというのに、そのような場所がみつからない。

 明らかにレヴィアがスピードダウンしていて……遂にその泳ぎが止まる。


「アレックスー! レヴィアたん、疲れたー!」

「ありがとう、レヴィア。一旦、船に上がって休憩してくれ」

「ん。けど、どうするー? この船、錨が無いから、このままだと流される……というか、既に流されてる」

「なるほど。ラヴィニアが止める……というのも難しいよな。……あ、いや。今のは確認しただけだ。気にしないでくれ」


 波はあっても、水流の無い海の上であれば石の壁で留められるが……この流れの中でも同じ様に石の壁で問題ないのだろうか?

 そんな事を考えて居ると、


「アレックスー。この河を進みたいんだよね?」

「あぁ、そうなんだが……」

「難しく考えすぎー! こんなの簡単に進めるよ?」

「そうなのか? ちなみに、どうやれば進めるんだ?」

「ふっふっふー。それはねー、アレックスがレヴィアたんに沢山飲ませてくれたら良い。アレックスのは体力が回復する効果があるから、レヴィアたんの疲れがなくなれば、これくらい余裕」


 レヴィアに早くしろと言わんばかりに抱きつかれる。

 ミオは……あ、今は譲れるタイミングではないと。

 結局分身スキルを使う事になり、エリーたちのところに居る分身と合わせて二十六体になったところで、突然景色が変わる。


「アレックスー! 思っていたより、早かったな! 分身も出現している事だし、早速始めようっ!」


 どうやら天后のスキルで船が転移したようで、アマゾネスの村の下に居て……いくらなんでも、呼び出しが早過ぎないかっ!?

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