第483話 人工呼吸

 水中で頭に衝撃が走る。

 ユーリは俺が抱きかかえたまま着水したので、おそらくニースが河へ落ちた時のダメージだろう。

 パラディンの防御スキルでダメージを肩代わりしておいて良かった。

 だが、ニースの姿が見えないのと、水流が激しいせいで、中々身動きが取れない。


「……ぷはっ! ユーリ! 大丈夫か!?」


 落下中に抜け落ちたのか、羽から矢が無くなっていたので、治癒魔法で治す。


「≪ミドル・ヒール≫」


 水中から顔を出し、先ずはユーリの傷を癒した。

 だが、ユーリが目を閉じたままグッタリし続けている。


「ユーリっ! ……っ!」


 ユーリの小さな口へ、人工呼吸で思いっきり空気を送ると……目が開いたっ!

 ……というか、目が開いたのは良いのだが、何回キスするんだよっ!

 とりあえず、ユーリは無事なようなので、次はニースだ。急いで探さなければ!

 だが、そう思った所で、上流からニースが凄い勢いで流れて来た。


「ニースっ!」


 ユーリと同じく、目を閉じたままのニースが、身動き一つせずに流されている俺とユーリのところへ。

 ……同じ河で流されていて、お互い泳いでいないのにどうして追いついたんだ?

 いや、そんな事はどうでも良くて、ニースにも治癒魔法を使ったのだが、やはり動かない。


「ニース……っ!?」


 ユーリと同じように、小さな口へ人工呼吸すると、思いっきり舌を絡められたんだが。

 ニースもユーリも離れてくれなくて……更に何か大きくて柔らかい物が俺に抱きついている。

 これは……この触り方は、


「ラヴィニアか?」


 水中の影に向かって呼びかけると、予想通りラヴィニアが頭を出す。

 という事は、先程ニースが俺のところへ来たのは、流されている振りをしながら、実際はラヴィニアが運んでいたという事か。


「あなた、流石ですね。とりあえず、続きは後で、島か何かを探しましょう。私一人ならともかく、あなたを連れてこの流れを上るのは無理だわ」

「いや、ラヴィニアが居てくれるだけで、物凄く心強いよ。本当に助かる。……だけど、この状況で変な所を触るのはやめような」

「大丈夫です。状況は理解しておりますので、何処かに辿りついてからにするわ」


 それから暫く流され続けたところで、ラヴィニアが何かを発見する。


「あなた。あそこ……何だか洞窟みたいじゃないかしら?」

「そうだな。このまま流されて海まで行ってしまったら、相当遠くまで行く事になってしまう。ラヴィニア、行けるだろうか」

「そうね。流れに逆らって泳ぐわけでは無いし、あれなら何とか……」


 崖の間にある小さな隙間を目指して、俺とラヴィニアが泳ぐ。

 ニースと羽が濡れてしまったユーリはラヴィアに引っ張ってもらい、何とか目指した洞窟へ。

 流石に船が入る事は出来ないが、人が通る分には十分な広さがりそうだ。


「≪ライティング≫」


 神聖魔法で明かりを灯すと……良かった。天井にコウモリや虫がビッシリ……とかだったら、ユーリたちがトラウマになりかねないからな。


「それより、ユーリもニースも大丈夫なのか?」

「うん、ごめんねー。なにか、とんでくるなんて、おもわなくて」

「いや、こちらこそすまない。もっと警戒して、防御スキルを使っておくべきだった。ニースもすまなかったな」


 ニースについては、地上へ通路が繋がった訳ではないので、あのまま隠れてくれるかと思ったんだが、落ちていく俺とユーリに向かって跳ぶとは思っていなかったんだよ。

 それからラヴィニアに話を聞くと、天后が転移スキルを使った際に、たまたま水の中に居たらしい。

 その後、俺たちが落下するのを見て、すぐさま助けにきてくれたのだとか。

 ニースと離れ離れにならなかったのはラヴィニアのおかげなので、感謝の言葉を伝え、次に逢瀬スキルを使用する。

 対象はリディアなのだが……その後ろで、何やらレヴィアが不機嫌そうにしているな。


「……リディア。そちらはどういう状況なんだ?」

「アレックスさんっ! 良かった! ご無事だったんですね! 人形さん経由で、ユーリちゃんが攻撃されて、アレックスさんたちが河に落ちたと聞いて、こちらはパニック状態だったんです」

「そうか。心配かけてすまないな。とりあえず、こちらは全員無事だ」

「良かったです。ちなみに、天后さんの転移スキルは結構な力を使うそうで、連続では何度も使えないそうなんです。それで、そちらに戻る事が出来ず、皆困って居るんです」

「わかった。とりあえず、もうすぐ日が沈む。暗闇の中で、俺たちが居る場所を見つけられるとは思えないから、こちらから連絡するまでアマゾネスの村に居てくれ」

「畏まりました。あ……夜は、逢瀬スキルで分身してくださいますよね?」

「……か、考えておくよ」


 一旦逢瀬スキルを解除したのだが……確かに無事だって言ったけど、状況は考えてくれないだろうか。

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