第942話 調理開始

「≪石の壁≫」


 リディアから貰った精霊魔法のスキルを使い、石の壁を出していく。

 一度では石の壁が足りないので、何度か繰り返し石の壁を出していき……ひとまず目的の物が出来た。


「ユーリ。こんな感じでどうだろうか」

「パパ、すごーい! コンロが出来たー!」

「これなら、熱が苦手なこの国の者でも、調理が出来るんじゃないかな」


 熱湯に近い温泉から、石の壁で蒸気のトンネルを作る。

 そのトンネルを、温泉から離れた場所で待っているユーリたちのところまで伸ばしていき、最後は煙突のように上へ向けると、常に蒸気が立ち昇る穴が出来上がった。

 ただ、俺はリディアのように精霊魔法に長けている訳ではないので、作ったトンネルに目を向けると、ところどころで蒸気が漏れている。

 なので、小さな穴が空いている箇所へ行き、土の壁スキルで補強しておいた。


「アレックス。一応、鍋とボールとザルを用意させたのだが、足りるだろうか」

「そうだな。野菜を切るには、俺の予備のショートソードを使えば良いか。あとはまな板があれば……」

「アレックス。レヴィアたんが作る。任せて」


 ネーヴが調理器具を用意してくれていたのだが、足りないものをどうしようかと考えていると、レヴィアが両手で持てるくらいの、小さな石の壁を出して欲しいというので、少し離れた場所に出すと、


「……≪アクア・レイザー≫」


 レヴィアが出現させた鋭利な水の刃が、石の壁を一直線に切断した。


「ひぃっ!」

「……≪アクア・レイザー≫」

「ひぇぇぇっ!」


 レヴィアが水の刃を複数回生み出して、石の壁を小さく切断していくのだが、その度にスノードロップが悲鳴を上げる。

 いや、さっきの会話と、石の壁の切断の仕方から、レヴィアがまな板を作ってくれていると想像出来ると思うのだが……怯えすぎではないだろうか。


「アレックス、出来た」

「レヴィア、ありがとう。助かるよ」

「ここは水が豊富。レヴィアたんが本領発揮出来る」


 レヴィアが石の壁から、手頃な良い感じのまな板を切り出してくれたのだが、


「み、水系の竜人族さんでしたか……す、少しここから離れませんか? 水の無い場所へ」

「……さっきから、うるさい」

「だ、黙りますっ! 指示があるまで喋りませんっ!」


 スノードロップがレヴィアに怯えすぎているな。

 料理を始める前に、フォローしておくか。


「スノードロップ。あの石の壁を切断した事でレヴィアに怯えているみたいだが……あんまり気にし過ぎないでやってくれないだろうか」

「いや、気になるでしょ! あの分厚い石を切断したんですよ!? 人間族の貴方にそんな事が出来ますか!?」

「え? 出来るが? ただレヴィアみたいに、綺麗な断面では無理だが」

「はんっ! そうまで言うなら、やってみせなさいよ! そんなの出来る訳……」

「ん? やればいいのか? よっ……と」


 スノードロップがやって見せろというので、レヴィアがまな板を切り出してくれた石の壁を、手刀で割ってみた。

 当然、断面は真っすぐではないが、それは予め伝えてあったし、構わないだろう。


「こんな感じだが」


 ひとまず、石を斬るくらいなら、レヴィア以外にも出来るから、怯えすぎないでくれ……と実演してみたのだが、何故かスノードロップが納得していないようだ。

 だから……なのか、そのまま同じ石に近付いていき、俺と同じ事をする。


「……せぃっ! …………い、痛い! 手がっ! 手がぁぁぁっ!」

「≪ミドル・ヒール≫……あのね、普通の人がパパの真似をするのは止めた方が良いと思うのー」

「あ、あの人、実は巨人族とか竜人族とかではないですよね!?」

「うん。パパは人間族だよー? あ、でも、ママのお友達の巨人族のイネスが、一部は巨人族並だって伝えて欲しいってー」

「あ、それは知ってる」


 スノードロップとユーリが石の近くで何か話している間に、レヴィアに出してもらった水で野菜の類を洗い終え、皮を剥き終えた。

 とりあえず、ユーリがリディアやエリーの指示を教えてくれないと、何をどうすれば良いのか分からないのだが……そろそろ戻って来てくれないだろうか。

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