第943話 雪国の蒸し料理
「パパー! あのね、次はポテトだってー! バターがあれば乗せて欲しいってー」
「わかった。任せてくれ」
「あとねー、卵があれば、もっと良いってー!」
スノードロップとの話を終えたユーリに、リディアやエリーたちの指示を伝えてもらい、調理をしていく。
流石に、リディアたちのように見た目を綺麗に作る事は出来ないが、基本的な事は俺も出来るからな。
指示された通りに皮を剥いたり、切ったり、下味をつけたりしていく。
「アレックスにユーリよ。スノードロップたちに卵を持って来させたぞ」
「えっとねー、そこのザルに入れておくだけで良いんだってー!」
「ふむ。これか? 卵をザルに入れておくだけで出来る料理とは何なのだ?」
ネーヴが不思議そうにしているが、正直言って俺だってわからない。
今は、言われた通りにザルへ様々な野菜を並べているだけだからな。
とにかく無心で指示通りに作業をしていると、少し離れたところから、大男とスノードロップの声が聞こえてきた。
「こ、これはダメだっ! この大きさを見てくれ! せっかくの特大サイズなんだ!」
「馬鹿者っ! 相手は竜人族だぞっ!? ネーヴ様だけでも大事なのに、竜人族まで一緒に来ていて、おまけに素手で石を割る人間族だなんて……無茶苦茶過ぎるだろっ!」
「だけど、魚は生で食べるのが一番旨いんだーっ!」
あぁ、さっきユーリ経由で、エリーが魚をリクエストしたからか。
確かに魚の身を綺麗に下ろした切り身は旨いな。
ただ、俺としては少し火で炙った方が好きなのだが……あ、スノードロップが勝ったらしく、大きな魚を持ってきた。
「お、お待たせしました。近くの河で取れた魚です」
「うぅ……そのまま齧りたい」
「まぁまぁ。ひとまず、こういう食べ方もあるっていうのを知ってもらえればと思うんだ」
大男が未練がましく魚に目をやっているが、今日のところは我慢してもらいたい。
まぁ元々はうちの作物をマズいなどと言った事が発端なので、魚は関係無いと言えば関係ないんだけどな。
とはいえ、エリーから言われた通り魚の内臓を取り出して、身を三枚に下ろす……って、どうやるんだ?
俺もユーリも、切り方がわからないという話をしたところ、最終的にブツ切りになった。
メイリンの遠く離れた場所で会話出来るスキルは非常に優れているとは思うが、言葉だけで伝えるには限界があるものだな。
次に魔族領へ戻ったら、リディアとエリーから料理を教わるか。
「最後に、食材を沢山乗せたこのザルを、蒸気の煙突の中に入れるか、上に置くんだってー!」
「サイズ的に中へ入れるのは難しいから、上に置こうか」
食材を乗せた大きなザルが、煙突から立ち昇る蒸気に包まれる。
……ザルを置く時にも思ったが、これは炎無効化スキルの俺じゃないと取り出せない気がするから、もう少し手を加えないと、この国の人たちでは使えないか。
リディアたちに取り出して良いと言われるまで待っている間に、何とか煙突を加工しようとして……俺にセンスが無いので諦めた。
ザルに予め紐を結んでおいて、紐を引いてザルを煙突の上から動かしてもらう事にしたところで、ユーリから声が掛かる。
「パパー! もう取り出して良いってー!」
「そうか。よし……みんな、食べてみてくれ。ちゃんと火を通せば、うちの作物がいかに美味しいかわかるはずだ」
という訳で、熱い温泉の湯気で作った蒸し料理を小皿へ移していく。
俺も何か食べてみようと思い、バターを乗せたポテトを口に運ぶ。
温泉の蒸気だからだろうか、ほんのり塩味がして、バターの香りとコクに包まれたポテトの味が口の中へ広がり……旨いな!
「ユーリ。こっちのポテトを食べてみようか。凄く美味しいぞ」
「パパー! このニンジンも甘くて美味しいのー!」
「……美味しい。このキノコも美味しいけど、レヴィアたんはアレックスのキノコの方が好き」
ユーリも美味しそうに食べ……レヴィアはよく分からない事を言っているからスルーして、ネーヴたちにも感想を聞いてみる。
「ふむ。私には少し熱いが……蒸したカボチャも美味しいな」
「これが、コーン!? 凄く甘い! 今まで食べていた硬くて味の無いコーンは何だったんだ!?」
「……って、スノードロップ!? コーンの中の芯も食べられなくは無いと思うが、普通は食べないと思うのだが」
ネーヴが美味しそうにカボチャを食べる一方で、スノードロップがコーンを端から丸かじりしていた。
これは……作物を貿易するだけでなくて、食べ方も教える必要があったのかもしれないな。
「なっ……葉っぱが、甘い!?」
「魚っ! 魚にバターや野菜がくっついてしまって……あれ? これはこれでいけるな」
「あの外側の茶色い部分がマズくて、中の白いところが辛いオニオンが……甘いぞっ!?」
大男たちも作物の旨さがわかってくれたみたいだが……オニオンを外側の皮まで生で食べていた事がわかり、どこから手を付けるべきかと、頭を抱える事になってしまった。
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