第834話 姿の見えない敵
「くっ……何かカウンター系のスキルを使っていたから、何もわかっていない振りをして近付いてきたのか!」
相変わらず、謎の男性の声が何言っているが……カウンタースキルなんて俺は持っていないのだが。
というか、俺からは何もしていないのに。
「お前は何者だ。姿を見せろ」
「ふっ、それが出来れば苦労は無いが……そんな事より、ドワーフの女たちをこっちへ渡して謝るのなら今のうちだぞ? いや、俺の手を折った詫びも含め、この船に居る女を全員寄越せ! そうしたら命だけは助けてやる」
「どこの誰だか知らないが、何を言っているんだ?」
「……交渉決裂だな。後悔はあの世でしろよ」
ふむ。ドワーフの女性を求めるあたり、この姿の見えない男はメリナ商会の者なのだろう。
ドワーフの女性たちを救い出した後、跡をつけられる事も懸念して、馬車をかなりの速度で走らせたのだが……ダメだったか。
やはり本気で走るべきだったか?
「おい! お前……出番だ! 封印を解いてやる……≪アンロック≫」
男が突然全く違う方角……陸の上に向かって何かの魔法を使うと、突然壊れた輪っかが地面に落ちた。
何かの封を解いた……のか?
落ちた物について考えていると、その輪っかがある場所から、綺麗な女性の声が聞こえてくる。
「……あー、こほん。元の姿に戻って良いのか?」
「あぁ。お前の力を縛っていた力は解いた。さぁ、この男を殺すのだ! 丸のみでも、八つ裂きでも何でも良い! 殺してしまえ!」
「わかった」
何だ? 輪っかのある場所から、物凄い殺気を感じる。
これは……かなりヤバいのでは!?
「アレックス様っ! き、危険ですっ! ミオ様の結界の中へ!」
「む、無理なのじゃ! この魔力は……我の力では防ぎきれぬっ! 殺気で魔力が膨れ上がり……おそらくレヴィア以上なのじゃ!」
レヴィアよりも凄い魔力だって!? それは確かにマズい。
だがフョークラとミオが慌てる中で、一体何が起こったのか、先程の輪っかの場所に黒い巨大なドラゴンが突然現れる。
これは……まさかブラックドラゴンなのかっ!?
「なっ!? なんだと!? ……マリーナ! この触手を解いて、完全にミオの結界の中へ!」
「わ、わかったー! アレックスも早くー!」
だが、マリーナの触手が消えるや否や、黒く大きなドラゴンの尻尾が船の上を薙ぎ払う!
盾で防ごうとして……あれ? 俺には当たらなかったぞ?
「ぐぼぁっ!」
先程の男性の声が聞こえたかと思うと、かなり遠くで何かが水に落ちる音が響き渡る。
それから、暫し海面がバシャバシャと波立ったかと思うと、少しして海が静かになった。
……えっと、先程の姿の見えない男が、黒いドラゴンに吹き飛ばされたという事だろうか。
「失礼。私は竜人族の黒竜種……いわゆるブラックドラゴンと呼ばれる種族で、オティーリエという。そこの人間族? ……の男性よ。貴方のおかげで、我が力を封じていた者を倒す事が出来た。礼を言う」
黒いドラゴンから殺気が消え、穏やかな女性の声で話し掛けてくる。
なるほど。先程の殺気は俺ではなく、あの見えない男に向けられていたのか。
「……って、ブラックドラゴン!?」
「如何にも……だが、どうしたのだ?」
「いや、ブラックドラゴンの女性が姿を消したという話を聞いたから……」
以前、西大陸で倒したブラックドラゴンは、女性が居なくなって滅ぶ事が確定しているので、他のドラゴンを道連れにしようとしたと言っていた。
だが、ドラゴンの性別は俺には分からないが、この声からすると女性……だよな?
「どうして、人間族である貴方がその事を……いや、見た目は人間族だが、魔力が違う。それに、そちらの獣人族の童女はかなり強い魔力を持っている。貴方たちは一体……」
「俺たちは普通の人間や獣人族だが……その、実はブラックドラゴンの男に襲われてな」
「えっ!? どうしてブラックドラゴンが貴方たちを!?」
「そうだな。俺たちも聞きたい事があるし、少し話が出来ないだろうか」
「それは構わないのだが……少し待っていてくれ。見た方が早いだろうが……少し事情があるんだ」
ブラックドラゴンの女性? がそう言うと……どういう訳か姿が消えてしまった。
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