第835話 ブラックドラゴンのオティーリエ

「どういう事だ? 話がしたいだけだったのだが……」


 オティーリエと名乗ったブラックドラゴンの女性が、突如姿を消してしまったので困惑していると、


「ごめんなさいね。私は竜人族でありながら、人の姿を失ってしまったの」


 誰もいない場所から先程の女性の声が聞こえてきた。


「人の姿を失った……というのは、自分で姿を消した訳ではないという事か?」

「えぇ。いつからかは分からないけれど、人の姿になると、周囲から姿が見えなくなってしまったの。ドラゴンの姿だと問題ないのだけれど、この姿は周囲の生き物に恐怖を与えてしまうのよね」


 オティーリエの姿は見えないが、溜息を吐いている……ような気がする。


「ふむ……これは、太陰の力なのじゃ」

「そうなの? そちらの獣人族さんの知り合いなら、解除してくれないかしら。姿だけでなく気配や魔力も感知されなくなるのよね。まぁ、さっき封印の首輪が壊されて、喋ったりドラゴンの姿になれるようにはなったから、まだマシだけど」

「そういえば、どうして竜人族のオティーリエがその首輪を付けられたんだ? ブラックドラゴンに近付ける奴など、そうそう居ないだろ?」


 実際、あのブラックドラゴンの男との戦いは大変だったしな。


「あはは。いやー、誰にも姿が見られないし、普段出来ない事をしようと思ってね。透明な人の状態で、人間族の街の真ん中で寝てたら、あの首輪を付けられたんたよ。どうやら、同じ透明状態の者どうしは見えるみたいでね」

「そ、そうなのか。……そういえば、ミオとフョークラは、どうして先程の男に気付けたんだ? 奴も姿が見えなかったし、気配すら感じる事が出来なかったんだが」


 喋ったり、魔法を使ったり、マリーナが触手を広げたりしてくれたお陰で位置が分かったが、実際その存在にすら気付けていなかった。

 おそらく、街から馬車を付けて来ていたのだろう。


「うむ。我も全く気付く事が出来なかったのじゃ。ところが、この船が中に魔力の回線を張り巡らせおる。誰も居ない場所の魔力が変に影響を受けておったから、何か居るのではないかと気付けたのじゃ」

「これはドワーフさんたちの魔力がショボい……こほん。えーっと、少ない魔力を創意工夫で何とかしようとした怪我の功名ですねー」


 いや、ミオの話はともかく、どうしてフョークラはドワーフたちを貶めるような事を言うんだよ。


「そこの半肌エルフ! 我らの技術をショボいって言うなー!」

「いえいえ、技術は素直に凄いと思ってますよ? 技術は。ただ、エルフの魔力に比べれば大した事がないので無駄な努力……というか、私が半裸って言ったけど、貴女たちは下着姿でしょっ!」

「うぐっ! そ、それは、出発前にアレックス様のを見せるから……そうです! 魔力の事よりも早くアレックス様のを見せてください!」

「そうね。アレックス様のを賜る事に比べれば、先程の男など取るに足らない、どうでも良い話よ! わかっているじゃない」

「ふふっ、やっとドワーフとエルフの意見が一致しましたね。……という訳で、アレックス様! 早く我々にアレを下さいっ!」


 ドワーフの兵士たちとフョークラが手を取り合ったかと思うと、服を脱ぎながら俺に迫ってくる。

 いや、マジでそんな事をしている場合ではないんだが。


「とりあえず落ち着いてくれ。そんな事よりも、今はオティーリエの話を聞くのが先だ」

「無理です! 我々はアレックス様の帰りをまだかまだかと待っていたんです! 救助者を国へ送り届け、明日からもお仕事を頑張る為にも、訓練ばかりで全く出会いがない我々にお情けを!」


 女性兵士たちの圧がとてつもないんだが、ここは折れる訳にはいかない!


「まだ船の近くに同じような状態の敵がいるかもしれないだろ」

「いや、ここには先程の男と私しかいないが……さっきから何の話をしているんだ?」

「オティーリエさん! 見た方が早いです! これを見てくださいっ!」


 そう言ってフョークラが下半身に向かって突撃してきたが、甘いっ!

 今回はマリーナもモニーも抱っこしていないから、軽く避け……こ、これは何だ!?


「ふっふっふ。私の身体能力でアレックス様に勝てるとは思っておりません。という訳で、ミオさんから聞いて作った、マンドラゴラを煮詰めて作った濃厚精力剤を噴霧しておきました。……あ、男性にしか効かないようにしているので、ご安心を」


 いや、何が安心なのかは分からないが、フョークラの薬で意識を失ってしまった。

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