第489話 テンションが急上昇するアレックス

「あの、ここに居る者の代表として伺いますが……人間族、ですよね?」

「そうだが? 何か?」

「いえ、気なさらないでください。それより、魔王の怒りの話でしたな」


 そう言って、村長が話したのは北の大陸に伝わるという昔話だった。

 大昔に四神獣と呼ばれる神たちが魔王に挑み、力及ばず敗れてしまった。

 四神獣はそれぞれの棲家へ帰って力を回復させようとしたのだが、魔王はそれを許さず、力のある部下を送ったのだと。


「ここまでは、俺も良く知っているよ。魔王配下の四天王だよな」

「我々は、どのような者が送られて来たのかまでは知りません。ですが、とてつもない魔力を持っていると聞いております。そして、ここ北の大陸には、風の力を司る悪魔が遣わされたと」

「風の力を司る悪魔か。なるほど……」

「はい。風を司る悪魔は、その強大な魔力で、この北の大陸を持ち上げたと言われています」

「それが魔王の怒りか」


 ミオや天后から、玄武は水の力を持つと聞いている。

 その水から遠ざける為に、大陸を上に引き上げたというのは、確かに凄いな。

 エリーたちが居る魔族領も、未だに西側と北側は端が見えていない程の、物凄い広さの土地が土に埋められているし、やはり四天王というのは凄いのだろう。


「待てよ。この大陸を持ち上げたのは、玄武を水から遠ざける為か」

「玄武というのは、北の大陸に棲んでいると言われる神獣ですよね? それはあり得るかもしれません。怒りと表される程ですし」

「という事は、元は玄武の棲家は水辺にあったはずだ。この大陸の海と河を調べれば、魔族領が……玄武の居場所がわかるはずだっ!」


 北の大陸へ来て、ようやく玄武の手掛かりになりそうな情報が得られた。

 となると、やはりあの河をどうにかしないといけないのか。


「すまない。三つ聞きたいのだが、魔族領という場所に聞き覚えはないだろうか」

「……いえ、聞いた事もない名前ですね」

「そうか。ならば、そこの河は、何処まで続いているのだろうか?」

「この小川ですか? 風の力で水を汲み上げるのは、かなりの代物です。この小川は小さいですが、隣の村まで……ま、まさか、この村だけでなく、隣の村の女性を全員手籠にする気ですかっ!? 流石は性欲王。ありとあらゆる所に子孫を残そうとする性欲……凄まじいというか、羨ましい」

「ち、違うぞっ!? そこの小川ではなく、その水を汲み上げている大きな河の話だ」


 村長にあらぬ感違いをされ、慌てて否定する。

 さっきも話したが、あれは不可抗力というか、魅了スキルの暴走によるものなんだ。

 ……いやまぁ、今回は魅了スキルというよりも、小川の水を飲んでしまった事が主な理由だが。


「あの、老婆心ながらお伝えいたしますと、隣は獣人族の村です。身体能力は人間族とは比べ物になりませんし、これ以上のトラブルは避けた方が良いのではないかと」

「えっ!? 獣人族の村だって!? な、何の種族だ!?」

「お、落ち着いてください。確か……リスだったかと。木の上に住んで居て、尻尾が大きい獣人です。臆病であまりこちらとも関わろうとしないので、殆ど交流はありませんが」


 おぉぉぉ……ユーディットに続き、ノーラが故郷へ帰れるかもしれない。

 とはいえ、俺たち人間がいろんなところに街や村を作って住んで居るように、リス耳族だって色んな所に住んで居る可能性がある。

 ぬか喜びさせないように、ノーラには伝えず、先ずはこちらからノーラの事を知っているか確認してからだな。


「……獣人って聞いた途端に、物凄く興奮し始めたぞ? あのハーレム王はケモナーなのか? いやまぁぶちゃけ獣人族の女の子はアリだけどな。モフモフしたいっ!」

「……いや、人魚族の妻に天使族の娘だろ。あと、あの幼い子は恐らく人間の子だから、次は獣人族の子が欲しいんだよ。きっと、全種族を孕ませる気だぜ」

「……ぶっちゃけ、あの男なら巨人族の女相手でもいけるんじゃないか? ただ居るかどうかは知らないが、小人族とか華奢なエルフとか、幼いドワーフ族の女なんかは逆に無理そうだけどな」


 周囲の男たちが何か言っているが、それよりも三つ目の確認だ。


「村長。最後の質問だが……あの大きな河の向こう岸には、どのような奴らが住んで居るんだ?」

「残念ながら、分かりません。河が大きすぎる事と、川底までかなりの高さがあり、かつ流れが急なので、橋を掛ける事も出来ませんので」

「そうか……わかった」


 どんな奴らかは知らないが、向こう岸の奴らはユーリを矢で射ったからな。

 場合によっては、許さん……が、その前に獣人族の確認に行くか。

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