第136話 妖術を使う……らしいアレックス

「ところで、ツバキちゃんだっけ? どうしてサクラの妹がここに?」

「はい。以前にお伝えした通り、拙者はメイリン様にお仕えしていたのですが……」


 一先ず全員が服を着て、落ち着き――フィーネは未だしたりないと、胡座をかく俺の脚の上に座って膨れているが――サクラの話を聞く。

 どうやら、転送装置を使って来た際に手紙を出しており、二週間以内に次の手紙が無ければ、代わりにメイリンを頼むと書いたそうだ。


「あー、ここからだと、手紙は出せないからな」

「そうなのです。それで、約束の期限が過ぎ、転送装置でメイリン様の元へ来たのかと」


 まぁ誰も悪くない悲しい事故……といった感じだろうか。


「ミオ。一先ず、ツバキちゃんと話がしたいんだが」

「分かったのじゃ。向こうの声はこちらに聞こえぬが、こちらの声は聞こえておるのじゃ。一先ず、会話が出来るようにすれば良いのじゃな?」

「いや、結界を全部解いてあげて欲しい。無理矢理閉じ込められた状態で会話しても、もろもろ信じてもらえなさそうだし」

「ふむ……まぁ良いのじゃ。……解除したのじゃ」


 ミオがそう言うと、謎の鎖を構えたツバキが、一直線に俺の所へ向かってくる。


「この、腐れ外道っ! メイリン様によくもっ!」

「ツバキ。拙者たちの話は聞こえていたのであろう?」

「えぇ。サクラ姉とメイリン様が妖術により、その男に操られているか、洗脳されている事はよく分かりまし……たっ!」


 サクラとツバキが戦い始めたけど……うん。サクラの方が何枚も上手だな。

 念の為、パラディンの防御スキルで皆を守り、


「ところで、フィーネのスキルを習得しに来たのではないのか?」

「そうっ! それですっ! シェイリー殿。さぁ例のスキルをフィーネ殿にっ!」

「まぁそれは構わないのだが、我が教えられるのは、あくまで作り方のみ。それに必要な材料を集めて初めて使用可能となるものだ。そこを履き違えぬようにな」


 フィーネと何故かモニカが、シェイリーから必要な材料を聞いている。

 さて、サクラの方はどうなっただろうか。


「くっ……私では、まだサクラ姉に届かないっ! 妖術から解放してあげられないっ!」

「……いや、拙者はそもそも妖術とかを掛けられていないからな?」

「本人が妖術に掛けられている事を自覚出来ていないのが厄介。一先ず、ここはメイリン様を連れて逃げるか……」


 ツバキは完全に誤解していて、このままでは何をするか分からないな。

 一先ず、俺から話してみるか。


「ツバキちゃん……で、良いんだよな? 俺はアレックス。パラディンで……」

「嘘吐けぇぇぇっ! パラディンが分身スキルまで使って、幼女を襲うかぁぁぁっ!」

「いや、分身スキルはサクラから貰ったスキルで、シェイリーとミオは……」

「スキルを貰う!? 普通の人間にはそんな事出来ないし、やっぱり妖術使いねっ! 私はサクラ姉とは違って、そんな妖術に負けないんだからっ!」


 妖術って。

 というか、全く聞く耳を持ってくれないな。

 ツバキが俺から距離を取り、メイリンのもとへ。


「さぁ、メイリン様! お逃げ致しましょう」

「サクラの妹……ツバキとやら。知らぬ事故、今回は不問にするが、アレックス様は妾の夫であるぞ」

「やはりメイリン様にも妖術が。これだけの人間に妖術を掛けるとは、かなりの使い手……貴様っ! 正体を明かせっ!」


 ……あ、俺の事か。

 さっきパラディンって名乗ったんだけどな。……ちょっと面倒臭くなってきた。


「アレックス様。拙者の妹が申し訳ありません。一先ず、チャージスキルでわからせますか?」

「すまん。どういう意味だ?」

「もちろん、先程の続きです。ツバキの身体にアレックス様のを覚え込ませ、拙者たちのようにアレ無しでは生きていけないように……」

「いや、サクラは自分の妹に何をしようとしているんだよっ! というか、別にアレが無くても生きていけるだろっ!」

「いえいえ、一度アレックス様のを身体が覚えてしまったら……もう無理です」


 サクラが意味不明な事を言うので、助けを求めてエリーやリディアに目を向けると、その通りだと何度も頷かれる。

 いや、フィーネなら頷くのも分かるけどさ。


「くっ……貴様っ! 答えろっ! どうすれば、この妖術は解けるのだっ!」


 ……うん。やっぱり面倒臭いので、


「レイ。何か大人しくさせる薬とかって無い?」

「ありまっせ。これを飲ませれば……って、早っ!」


 レイに何か無いか聞いてみると、あっという間にサクラがツバキちゃんに飲ませ……倒れた!?


「レイ。さっきのは、どういう効果の薬なんだ?」

「睡眠薬やで。これで、あの妹ちゃんは、ちょっとやそっとでは起きへんから、アレックスはんのでわからせ放題やで」

「アレックス様。そういう事でしたら、ぜひ拙者にも……」


 いや、しないから。

 サクラも……というか、フィーネやモニカも期待しない!

 一先ず、フィーネにスキルを教えたシェイリーが、地上まで送ってくれるそうなので、ツバキを抱えて背に乗せてもらった。


「眠っている間に、アレックス様に抱きかかえていただけるとは……羨ましい。あとで、ツバキはお仕置きだな」


 サクラは姉妹なんだから、仲良くしような。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る