第567話 熊耳族のビビアナ
「すまない、待たせたな」
「あれ? アレックスー。姿が見えないよー?」
「あぁ。分身を使う前に、まずは色々と決める事を決めてからにしようと思ってな」
再びユーディットに逢瀬スキルを使用し、意識を魔族領へ。
だが、分身たちが変な事をする前に、真面目に話をしようと思い、まだ分身スキルは使用しない。
ユーディットは抱きつける方が嬉しいと言うが、少し我慢してもらいたい。
「さて。魔物が現れる地下洞窟へ行くにあたり、誰に同行してもらうかだな。あ、当然だけど妊娠している者は禁止だからな」
「マスター。私としては、マスターの分身が一緒に来てくれるであれば、それで十分かと思いますが」
「いや、俺は分身の操作が完璧だとは言えないし、最悪何かで分身スキルが解除されてしまったら困る。よって、戦闘職の者が最低一人は必須とする」
と、自分で言ったものの、こういう時に最適なカスミやサクラたちは、全員シーナ国へ行ってもらっている。
一番近くに居るのがツバキだが、リザードマンの村の対応をしてもらっているからな。
他に適任なのは、モニカやエリーだが、モニカは北の大陸で別の任に当たってもらっている。
転移スキルで戻てくる事も可能だろうが、一緒に行動しているフェリーチェが困ってしまうので、ダメだ。
エリーは妊娠しているし……って、この感触は何だ? まだ分身スキルを使用していないというのに、まるでサマンサやジェシカから舐められているかのような感じがする。
「って、この感覚は!?」
「アレックスー。どうかしたのー?」
「え? こ、こほん。いや、何でもないんだ。気にしないでくれ」
くっ……逢瀬スキルを使っている俺の本体に対して、サマンサたちが既にいろんな事をし始めているようだ。
と、とりあえず本題を進めようと思うのだが、誰が適任なのだろうか。
「アレックスー! ウチの事を忘れているんよ。ウチが同行すれば問題無しなんよ」
「ヴァレーリエは確かに問題無しだが、何かあった時にここに居る者たちを守ってもらいたいから、出来れば常に地上に居てもらいたいのだが」
「うーん。まぁアレックスがそう言うなら……とりあえず、早く人選を決めて、さっきの続きをお願いしたいんよ」
「も、もう少し待ってくれ」
ソフィは遠距離攻撃が可能なので、出来れば近接攻撃職が良いのだが、この近くに居る者となると……
「あ、そうだ! ビビアナだ! ビビアナなら問題ないだろう」
ビビアナは熊耳族のグラップラーで、接近戦が得意だ。
その上、この西の宿から少し離れた場所に、熊耳族の少女たちと共に住んで居るから、呼べばすぐに来てくれるだろう。
普段、西の宿や南の家に居ないから、暫く会えておらず申し訳ないな。
という訳で、早速サクラの人形がビビアナの所へ呼びに行ってくれた。
後は、攻撃魔法を使うエリーの人形と、回復魔法を使うステラの人形が居れば完璧だ。
ようやくメンバーが確定したと胸を撫でおろしていたのだが、
「アレックス。ビビアナは、ちょっと……」
何やら思いつめた様子でユーディットが話し掛けて来た。
「何かマズい事があるのか?」
「……うん。それはね……」
ユーディットが何かを言おうとしたところで、
「アレックス様ー! 会いたかったッス って、あれ? アレックス様が来ていると聞いたッスけど……」
ビビアナと熊耳族の少女たちがやって来た。
声だけでは申し訳ないと思い、分身スキルを使用すると、
「アレックス様! アレックス様……本当に会いたかったッス!」
「すまなかったな。実は今、北の大陸に居てな」
「いえ。こうして触れ合えるだけで、自分は幸せッス」
ビビアナが抱きつき、俺の胸に顔を埋めてくる。
それは良いのだが、早速ヴァレーリエやフィーネたちが俺の分身に抱きつき……あー、これはサマンサたちも同じか。
ひとまず、ビビアナに事情を伝えようとしたのだが、
「アレックス様。誠に申し訳ないのですが、今回のお話……自分は同行出来ないッス」
いきなり断られてしまった。
「それは熊耳族の少女たちと離れる事が出来ないからか?」
「いえ、違うッス。今までこっちの家に来なかった理由でもあるのですが、自分……実はアレックス様の子を妊娠しているッス」
「えっ!? そ、そうだったのか! 気付いていなくて、本当に申し訳ない」
「こちらこそ、お話ししてなくて申し訳ないッス。ある程度、安定するまでお話しするのを躊躇ってしまって……」
命が宿っているか否かがわかるユーディットも頷いているし、ビビアナが妊娠していた事が確定したので、非常にめでたいのだが……地下へ行くメンバーを再考する事になってしまった。
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