第566話 ソフィの記憶の断片

「ソフィ。どうしたんだ?」

「いえ、わからないのですが、私は以前に空や風に関する……というか、空を飛ぶ系の研究を行っていた気がするんです」

「本当か!?」

「はい。ただ、気がするだけで確証はなくて……マスター。以前に連れて行っていただいた、地下にある施設へもう一度行かせていただけないでしょうか。あそこへ行けば、このデータの断片を、復元出来るかもしれません」


 ソフィが俺の分身に抱きつき、懇願してくる。

 が、別の分身が相変わらずソフィの背後から……いや、真面目にソフィと話したいんだが。


「……こほん。しかし、地下洞窟は魔物が現れるから、ソフィを一人で行かす訳にはいかない。最低限、戦える者が同行しないとな」

「マスター。私はそれなりに戦う事が出来ると自負しておりますが」

「ソフィの攻撃力が凄いのは俺も十分理解している。だがその一方で、魔力が切れたら動けなくなるし、一人では許可できない」

「でしたら、マスターが一緒に来て下されば、全て解決です」

「いや、俺自身は北の大陸に居るからな。分身でソフィについて行くというのは当然するとしても、今だって真面目な話をしておきながら、この状態だからな」


 ソフィ自身もこんな話をしながら激しく動いているし、仮にソフィが止めたとしても、今はノーラとコルネリアが頑張っている。

 更に、北の大陸の本体がレヴィアたちに……とりあえず、分身でソフィについて行くのなら、本体を安全な場所に居させておきたいな。


「ソフィ。その空を飛ぶ研究というのは、俺も非常に興味がある。詳しく話したいので、少しだけ待っていてくれ。今、俺の本体が屋外に居るから、何処かの村へ移動してくる」

「はい、承知しました」


 そう言って、逢瀬スキルを解除すると、俺の意識が本体に戻った。

 ……戻ったのだが、この状態はどうしたものか。

 俺自身はレヴィアに押し倒されていて、ラヴィニアは気絶。トゥーリアとルクレツィアは……ぐったりしながらも、幸せそうだから良しとしよう。

 プルムは……分裂したんだな。幼い姿だし。

 そしてミオは……三人も一度に相手して大丈夫なのか? 結界を張って安全にしてくれているが、ミオが気絶したら結界も消えてしまわないか?


「皆、聞いてくれ。第一魔族領へ行くのに、第四魔族領に居るソフィが何か手掛かりを掴めるかもしれないという話がある。なので、暫く俺は逢瀬スキルで分身の操作に専念しようと思うのだが……いや、頼むから誰か聞いてくれないだろうか」

「パパー! だいじょーぶ。ユーリがきーてるよー!」

「ありがとうユーリ……って、み、見ちゃダメだっ! ぶ、分身解除っ!」


 もう手遅れかもしれないが、ユーリにこんな大変な状況を見せられないのと、皆が話を聞いてくれないので、一旦分身を解除する。

 ユーリと、気絶しているラヴィニアを除いて不満の声が上がるが、先程と同じ話を再びすると、


「なるほど。それはつまり、地下洞窟でソフィが求める物は、アレックスとし放題という事なのじゃな?」

「え……ま、まぁ逢瀬スキル側だけで分身スキルを使う事は出来ないから、そうなる……のか?」

「そういう事であれば、我らは全く構わないのじゃ。あ、どうせなら食事を用意してくれるアマゾネスの村でするのじゃ。ユーリよ。メイリン経由で天后に連絡し、我らが船に乗ったら、転移スキルを発動してもらうのじゃ」


 ミオが率先して動き、あっという間に皆が船へ。

 時間が無いと言っているし、非常にありがたいのだが、何というか……いや、プルムが気絶しているラヴィニアも運んでくれているし、とりあえず急いで移動しよう。

 俺が船に乗り込むと、ユーリから天后に連絡がいったようで、アマゾネスの村へ。


「では、俺は暫く逢瀬スキルで魔族領の地下洞窟へ行って来るから」

「アレックス。ここだと船が持たない可能性がある。もう少し移動してから」

「あぁ、そうか。船の小屋の中で分身が大勢現れるのはマズいか」

「アレックス本人は一番人気。みんなが順番を作るし、もっと広い場所が良い」


 いや、何の話だよ……と思いつつ、レヴィアの言葉に従い、サマンサの家へ。

 サマンサやジェシカ、リディアたちに事情と暫く俺が意識を失うが、スキルの為だという事を説明する。


「アレックスさん。分身の一体の操作に専念されるという事なのですね?」

「あぁ。俺はサクラやカスミみたいに、複数の分身を同時に操れないからな」

「リディアよ。大丈夫なのじゃ。こっちにも分身が現れるのと、海獺族の催淫効果なのか、容赦がない……もとい、十二分に満足させてくれるのじゃ」


 ミオ。リディアはそんな心配をしている訳では……いや、そういう心配だったのか?

 いろいろと思う所はあるものの、再び逢瀬スキルを使用する事にした。

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