第837話 怒りのオティーリエ
弾力のある巨大なタコが相手なので、まずは剣で触手を斬ろうとして……オティーリエがくっついたままで剣が抜けない!
「オティーリエ。すまないが一旦離れ……てくれない!?」
気を失っているハズのオティーリエが、両手両足で俺にしがみつく。
「……やだぁ。子供作るのぉ……」
「マリも、マリもー! よく分からないけど、一緒にするー!」
オティーリエは気絶というより寝惚けているのか?
あと、マリーナが背後から俺の首に抱きついてきたが、意味がわからないのに真似をしないように。
ひとまず、小さなマリーナはともかく、俺の身体を羽交締めにしているオティーリエを何とかしないと戦えない。
助けたドワーフの女性たちはミオが守ってくれているようなので、巨大タコに専念出来るのだが……やはり、片手で殴っただけでは弾力のあるタコにダメージを与えられない!
「はっはっは。女に目が眩むからだ! 流石に竜人族の力で抑えこまれれば、何も出来まい! ロゴ・トゥム・ヘレよ! あの男を海に沈めるのだ!」
俺が手間取っている間に、再び男の声が出て響き渡る。
マズい! 攻撃出来ない上に、今は逃げるのも……盾すらないし、どうすれば良いんだ!?
何かしら魔法系の攻撃スキルがあれば良いのだが、生憎俺が使える魔法は治癒系や防御系ばかり。
せめて両手が使えれば、触手を無理矢理引きちぎる事も出来るかもしれないのだが。
しかし、そんな俺の状態など知る由もなく、巨大なタコが複数の触手を動かし……自身の頭の上にある何かを掴んだ?
「は? いや、どうして俺を掴むんだ!? 俺じゃない! あの男だ! 男! 俺じゃなくて……」
一体何がおこったのか、タコが自ら海の中へ潜っていき、男の声も聞こえなくなった。
「……何がどうなっているんだ?」
「んー……おぉ、わかったのじゃ! 今のアレックスの状態なのじゃ。今のアレックスは女の子なのじゃ」
「すまん。ミオが何を言っているのかわからないんだが」
「今のアレックスは、マリーナの長い髪と、オティーリエの中に入っているアレが見えないから、タコから女だと思われたのじゃ……たぶん」
「それで、声から男とわかるあの男が海に沈められた……?」
「たぶん。まぁその、タコが人間の性別を見分けられるかどうかは、知らぬがな」
うーん。何とも言えないな。
いずれにせよ、再び戻ってくる可能性があるので、今のうちにオティーリエを起こして状況を説明すると、
「なるほどねー。私がアレックスので気を失っている間に、そんな事があったんだね。じゃあ、そのタコとあの男は私に任せてよ。あの男は尻尾の一撃で終わったから、怒りが収まっていないんだよ」
「だが、タコも男も海の中だぞ?」
「大丈夫、大丈夫。タコはわからないけど、少なくとも男の方は確実にもう現れなくなるから」
一体何をするのだろうかとオティーリエを見て……というか、声がする方に目を向けていると、陸地に突然巨大なブラックドラゴンが現れた。
敵意が感じられないし、タイミング的にオティーリエだと思うのだが、ブラックドラゴンが船を飛び越えて、海の上へ。
そこから首を下に向け……って、まさか!
「ミオ! 船に結界を! 全員、船室へ! 急ぐんだっ!」
大慌てで全員を船室へ入れ終えた所で、ブラックドラゴンが口から強烈な冷気のブレスを吐く。
あ、そっちか。てっきり、前に戦ったブラックドラゴンのように、雷を海に落とすのかと思ってしまった。
海の中の生き物が全滅しかねないと思ったが、これなら海面が凍るだけで……って、ちょっと待った!
「オティーリエ。ちょっとやり過ぎじゃないか?」
「え? いやー、怒りのままにブレスを吐いちゃったけど……まぁそのうち溶けるからさ」
戻ってきて人の姿になり、また見えなくなったオティーリエが、苦笑いしているように思えるが……オティーリエのブレスでドワーフの国まで、続いているのではないかと思えるほどに、海面が凍りついている。
確かにこれなら、先程の男は確実に上がってこれないだろう。
だが……
「あの、アレックス様。海が凍って船を出せそうにありません。船を出せませんので、今晩は船の中で寝泊まりするしかありませんね」
「仕方ないか」
「また魔物が出てくるかもしれませんし、アレックス様も、この船に泊まっていってくださいね」
メリナ商会を潰しに行くつもりが、思わぬ所で足止めされる事になってしまった。
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