第836話 気が付いたアレックス

「……はっ! 俺は一体……」


 気がつけば、ドワーフの兵士や助けた女性たちを含め、大変な事になっていた。


「む? その様子だと、正気に戻ったようじゃの」

「ミオ。どうしてこうなっ……あっ! フョークラの薬か」

「ふっふっふ。アレックスは状態異常に耐性はあるが、支援効果……バフは普通に受けるのじゃ」


 いや、意識を失う程の効果があるのに、どうして精力剤がバフ扱いなのだろうか。

 しかも俺は、レイから薬の効果が倍になるスキルを貰っているので、尚更効き目がヤバい事になるというのに。


「ところで、ミオ。凄い力で抱きしめられていて、動き難いんだが」

「むしろ、ブラックドラゴンに本気で抱きしめられて動ける方が凄いのじゃ」

「……って事は、これはオティーリエか!」


 オティーリエについては、顔すらわからないというのに、とんでもない事になってしまった。

 勿論責任は取るが……それ以前に姿を取り戻してあげないとな。


「しかし、今のアレックスは中々面白いのじゃ。どういう理屈かはわからぬが、オティーリエの中に入っている部分や、中に出したモノも見えないのじゃ」

「確かに。これは不思議だな」

「うむ。アレックスは結衣に時々処理してもらっておるが、オティーリエに処理してもらう事も出来そうなのじゃ」


 いや、そもそもそういう事態にならないようにしてもらいたいのだが。


「オティーリエ。そろそろ離して欲しいのだが」

「ダメよ。貴方は赤竜族と子供を作ったんでしょ? 私とも子供を……というか、こんなの知っちゃったら止められる訳でないでしょ」


 そう言われても、どうしろと……と思っていると、突然船が激しく揺れる。

 完全に船を停泊しているというのに……いや、海面も穏やかだ。

 この揺れは……何かがおかしい!


「な、何なのっ!? 船が……」

「この海域は穏やかなはずなのに、どうしてっ!?」

「おぉっ! 船の揺れでアレックスのが奥まで……アレックス、凄いっ!」


 ドワーフの兵士たちが慌てふためく中、姿の見えないオティーリエだけ発言が異なるが……この機会に離してくれないだろうか。

 とはいえ、ドワーフの兵士たちも船の揺れの対応をすべく、全裸で走り回っているし、丁度良いタイミングなので分身を全て解除する。


「クゥンッ……あれ!? ……アレックスの意識が戻っているのか。……こほん。クックック……アレックスの力は見事だった」

「くっ……私の番がまだだったというのに! せっかく私も……」

「母上。変な躊躇いをするからです……」


 何の話をしているのかハッキリ聞こえなかったが、いつの間にかブレアとモニカとモニーの三人が仲良くなっているようだ。

 しかし、それよりもこの船の揺れを調べないとな。

 そう思った直後、甲板に見慣れたあるもの……が凄く大きくなっているものを見つけた。


「マリーナ。これって触手……だよな?」

「うーん。そうだけど、マリーのじゃないよー? マリーには、こんな吸盤みたいなボコボコしたのないもん」

「じゃあ、これは……魔物かっ!」


 よくよく見れば、船の外……海から触手が延びてきているので、魔物に違いない。

 なので早く何とかしなければならないのだが、相変わらずオティーリエが離してくれない。

 だが、見えないオティーリエから抱きつかれている感はあるものの、事態が事態なので急いで起き上がる。


「~~~~っ! そんな思いっきり……」


 勢いよく立ち上がった反動か、オティーリエが気を失ってしまった。

 これはこれで放置すると危険なので、仕方なく透明なオティーリエを左手で抱きかかえたまま、船に付いた巨大な触手を引きはがすと、再び船が揺れ……巨大なタコ? が姿を現した。


「ふっ……ふはははっ! 天はまだ俺様を見捨てていなかった! 念の為に持ってきていた、服従の呪釘が役に立つとはな! おい、俺様の骨を折ったお礼をしにきてやったぞ! ロゴ・トゥム・ヘレよ! あの男を海に沈めてしまえっ!」


 タコが現れたと思ったら、突然大きな声が響き渡る。

 この声は……先程船に乗っていた、姿の見えない男か!

 オティーリエに吹き飛ばされて海に沈んだと思っていたのだが、巨大なタコを操って戻ってきたようだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る