第223話 新たな聖水の使い道

 ヴァレーリエが来た翌日。

 朝食を終えたところで、メイリンから北の小屋へ行くようにと言われる。

 小屋の近くに居た人形から、タバサに呼ばれているという話だったので、向こうの用件を聞き、ステラを呼んで欲しいと言ったら……めちゃくちゃ怒られた。

 それはもう延々と。

 しかし、ようやく説教が終わったと思ったのだが、その後もタバサの声が冷たい。


「で、種馬王アレックスさん。何人妊娠させたんですか?」

「種馬王って……いや、何でもない。とりあえず、確定は二人だと思うのだが、疑惑があるのが、二十人くらいだな」

「は? 二十人って、何ですか? というか、二人……いえもう、こっちは良いです」

「いや、数日前から兎耳族たちが移住してきて、全員から襲われたというか、そういう状況になったというか……」

「アレックスさん。エルフやドワーフに続いて、今度は兎耳族ですか。男性が遭遇したら、死ぬまで搾り取られると言われている種族ですよ? それが二十体? 前にも言いましたけど、もっとマシな理由を考えられませんか?」


 いや、マシな理由も何も、真実しか話していないのだが。


「とりあえず、ステラさんの事は分かりました。今更どうしようもないですしね。一先ず、お願いはしてみます」

「すまないが、宜しく頼む」

「あと、話を戻して本題のレッドドラゴンの件ですが、南にあるシーナ国の街から、討伐隊が派遣されるかもしれません。それまで、レッドドラゴンに遭遇しないように、警戒してくださいね」

「いやだから、そのレッドドラゴンは竜人族で……」

「はいはい。では、お伝えしましたからね」


 ヴァレーリエの話を信じて貰えずに、タバサとの通話魔法が終了してしまった。

 緊急事態だと言っていたので、俺一人で走って来たが、これならヴァレーリエを連れてくれば良かったな。

 しかし、討伐隊か。

 昨日、南へ向かってヴァレーリエに飛んでもらった時に街が見えたが、向こうからも見えていて、怯えられてしまったのだろう。

 南の街へ行き、皆をそれぞれの家に帰してあげたいだけなのだが、どうしたものだろうか。

 そんな事を考えながら、家に戻ると、


「おぉ、アレックス。ようやく戻って来たな」

「ん? シェイリーが自分から来るのは珍しいな」

「うむ。というのも頼みがあってな」


 リビングで暇そうにゴロゴロしていたシェイリーが起き上がる。


「先ず前提の話だが、西に描かれている天使族の魔法陣について、解析が出来たのだ」

「おぉっ! 凄いな。という事は、天使族の村へ一瞬で行けるのと同様に、シェイリーが指定した場所へ行けるようになるのか?」

「そういう事だ。だが一つ問題があってな。あの魔法陣は大量の聖水で描かれておるので、我に聖水を分けて欲しいのだ」

「それは構わないと思うぞ。聖水を使っていない訳ではないが、消費以上に溜まっていく方が多いからな」


 フィーネが魔物除けを作るのに聖水を使っているが、モニカとユーディットに、その人形のユーリが、毎日聖水を溜めている。

 モニカはともかく、ユーディットは奴隷から解放された事の感謝として聖水をくれるから、捨てる訳にもいかなかったしな。


「聖水を貰えるのは助かる。それと、その魔法陣だが、いきなり遠くへ行けるようにする前に、テストをしたくてな。テストでも大量の聖水を使うし、成功すればそのまま使えるように置いておきたいのだ。それで、何処か遠過ぎず近過ぎず、すぐ行けるようになればアレックスが便利になる場所はないか?」

「そうだな。ならリザードマンの村だが……その魔法陣は、双方向に行き来出来るんだよな?」

「そうだな。参考にさせてもらった魔法陣は、天使族専用になっているが、そこは誰でも使えるようにしようと思っておる。しかし、それで部外者が勝手に来ても困るから、リザードマンの村は避けた方が良いのではないか?」

「じゃあ、東の休憩所……いや、南だ! 南に丁度良い場所がある。ヴァレーリエがドラゴンに変身出来るくらいの広さを壁で囲っている場所があるんだが、そこへ行けるようにしてくれないか?」


 南の街へ行くには、歩いて行くのは遠過ぎて、ヴァレーリエに運んでもらう必要がある。

 だが、ドラゴンの姿を見て怖がらせてしまうのはマズい……と考えていた所だ。

 これなら、ヴァレーリエに運んで貰わなくても、南の街を目指せそうだしな。


「ふむ。では、その行き先を教えて欲しいのだが、何か魔力的な目印はないか? アレックスの生み出した石の壁を目印に出来なくはないのだが、何せこの辺りに壁が多過ぎるからな。何か、そこにしか無いもの……例えば、エルフの娘がそこにだけ生やした植物があったりすると良いのだが」

「いや、そこはヴァレーリエが着地して休憩しただけだから、特に特別な植物は……あ、そう言えば芝生を生やしていたな。他の場所に芝生は無かったと思うが」

「ほぉ……壁に囲まれた何も無い場所で、芝生を。どういう休憩だったのだろうな?」

「ふ、普通の休憩……だぞ?」

「まぁ良い。では、そこへ転移する魔法陣を描こうではないか」


 一先ず、シェイリーの要望に応える為、フィーネの所へ聖水を貰いに行く事にした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る