第728話 アレックスを探していた獣人

 男がフードを外すと、黒髪と大きな黒い耳が現れる。

 あれ、これって……ディアナと同じ豹耳族じゃないのか?


「あーっ! パパーっ! こんなところで何をしているの!?」

「おぉぉぉっ! ディアナっ! やっと会えたっ! さぁパパだよっ! パパのところへおいでっ!」


 ……って、ディアナの父親だったのか。

 ひとまず、ディアナを下ろす為、ユーリを起こさないように静かにしゃがむ。

 まぁ結構大きな声で喋っているのに起きないみたいだから、ちょっとやそっとでは大丈夫そうだが。


「パパー!」

「ディアナっ!」


 ディアナが俺の肩から降り、感動の再会となっている。

 良かった良かった。

 そういえば、ディアナの父親は、ディアナと母親を探しているんだったな。

 そして、この父親が連れていた、俺そっくりの……うん。俺が豹耳族の村に置いてきた、偽造スキルで作った人形か。

 父親は俺と面識がないから、この人形を運んできて、俺を探したという事か……うーん。西大陸では人間が少ないのだから、名前だけで探せた気もするが、まぁ結果的に良かったとしよう。


「アレックス……失礼。アレックスさん。村で聞いたのだが、ディアナを助け出してくれた上に、今まで面倒をみてくれていたとか。ありがとうございます」

「いや、気にしないでくれ」

「さぁ、ディアナ。村へ帰ろう」


 そう言って、父親がディアナの手を取る。

 奴隷解放スキルで助けた相手を、親元に返す事が出来たのは、ユーディットとノーラに続いて三人目かな。

 まぁユーディットは俺が家に帰したというより、天使族が迎えに来たって感じだけど。

 ディアナと別れるのは寂しいが、父親と生まれ故郷で過ごす方が良いだろう。

 そう思っていたのだが、


「パパ……ごめんね。ウチは、にーにと一緒に居る!」


 ディアナが俺にとっても、父親にとっても予想外の言葉を口にする。


「え? ディアナ? 父親と一緒に過ごせる方が良いのではないのか?」

「そ、そうだぞ! まだママは見つけられていないが、ママだって必ず見つけだしてみせる。だから一緒に家へ帰ろう」

「ヤダ! にーにに会えなくなる方がイヤだし、ママが見つかっていないって事は、家に帰ってもまたパパはママを探しにどこかへ行っちゃうんでしょ? だったら、これまで通り、にーにと一緒に居る!」


 そう言って、ディアナが父親の手を振り払い、俺に抱きついて来た。

 うーん。ディアナの言う通り、父親がまた不在になって、ディアナが独りぼっちになってしまうのであれば、確かに俺と一緒に居た方が良い気もする。

 年の近いツェツィも一緒に居るしな。


「アレックスさん。ディアナをこちらへ返してくれないか?」

「うーん。ディアナの意見も一理あると思うんだ」

「何を言っているんだ! 我々は獣人族。アンタは人間族だろう? それに、ディアナだって住み慣れた実家の方が落ち着くに決まっている」

「それはそうだろう。だが、貴方はディアナを家で一人にして、母親を探しに行くのだろう? 母親……妻を探しに行く気持ちはもちろん分かるが、ディアナが寂しく思うのもどうかと思うのだが」

「はっはっは、心配無用だ。ディアナは俺が不在の間、村の男たちの相手で寂しさを感じる暇なんてないさ」


 ……ん? どういう意味だ? 村の者たちが皆でディアナの面倒をみてくれるというのなら、まだ分かるのだが。


「今のはどういう意味だ?」

「そのままの意味だ。豹耳族の中でも、我々黒豹種は数の少ない選ばれし存在なのだ。その黒豹種を絶やす訳にはいかないだろう? ディアナももう成人しているし、村の誰かの子を産み、黒豹種の繁殖に一役買うんだ」

「……お前は、ディアナの父親なんだよな?」

「そうだが? それがどうしたんだ?」


 これは……殴って良いのか?

 それとも、獣人族の価値観がこういうものなのか?


「……ディアナ。俺と一緒に来ないか? 本当ならば、家族の元へ帰してあげたいのだが……」

「にーに。ウチは最初から、にーにと一緒に居たいって言っているよー!」

「そう……だったな。すまないが、俺もディアナを離したくないんだ。ディアナの意志を尊重させてもらって良いだろうか……というか、させてもらう」


 そう言って、ディアナを俺の背中に隠すと、父親の表情が露骨に変わる。

 父親からすると娘を奪われたのと同義なので、恨まれて当然だし、通常ならば俺も家族と引き離そうとしたりはしない。

 だが、流石にこれは黙っていられないな。

 悪いが、父親にディアナは渡せない!

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