第717話 ナターリエの力

 ひとまずツェツィが落ち着いたので、下で待っているミオたちと合流する事に。

 ツェツィたちが囚われていた洞窟を出て、ザシャの飛行魔法で地面へ降りると、早速ミオたちが近寄って来たので紹介しようとしたのだが、ナターリエがそれを止める。


「すみません。少しだけヤボ用がありますので、みなさん少し離れていただけますか」

「アレックスよ。この者……そして、そっちの少女。まさか……」

「これから説明するが、いろいろあったんだ。ひとまず、今は言う通りに離れようか」


 何となく、何をしようとしているかを察したので、ナターリエから離れようとしないツェツィに声を掛けて、皆で距離を取る。


「お父さん。お母さんは何をしようとしているのかな?」

「おそらく……」

「≪ヴァジュラ≫」


 ツェツィの疑問に答えるよりも前に、ナターリエが何かのスキルを使用した。

 その直後、先程まで俺たちが居た洞窟のある岩山に雷が落ち、岩山が跡形もなく崩れ去る。


「い、今の力は……イエロードラゴン!?」

「はい。……その魔力、貴女も竜人族ですか?」

「えぇ。ヴァレーリエって言うんよ」

「私はナターリエと申します。そして、この子が娘のツェツィーリエです」


 ナターリエがヴァレーリエに自己紹介を済ますと、ツェツィが俺の手を握り、


「お父さん。ツェツィも挨拶した方が良いい?」

「あぁ、そうだな。別行動していたけど、俺たちの仲間なんだ」

「ツェツィです。よろしくお願いします」


 俺とナターリエの間に立ったツェツィが、ペコリと頭を下げた。


「……アレックス。あんなに何度もしているウチと子供がまだ出来ていないのに、お父さんってどういう事なんよ!」

「ご主人様っ! 私めにも子種をっ! ご主人様ぁぁぁっ!」

「なるほど。人間族は一夫多妻制なのですね。では、私も恩返しが出来そうですね」


 ツェツィの言葉を聞いたヴァレーリエが泣きだしそうになり、モニカが脱ごうとしていたので止め、ナターリエがそっと俺にくっついてくる。

 とりあえず、事情の説明を! 説明をさせてくれっ!


「……という訳なんだ」

「あのブラックドラゴン……許せないんよ! ツェツィも辛いのに頑張ったんよ」

「我々イエロードラゴンだけでなく、レッドドラゴンまで。アレックスさんたちが、アイツを倒してくれて本当に良かったです」


 状況を理解したヴァレーリエが、ナターリエとツェツィに優しくなり、ひとまず丸く収まった。

 なので、次はナターリエに俺たちの旅の目的を説明する。


「……うーん。魔族領に居る白虎の救出ですか」

「あぁ。俺たちは、その為にこの西大陸へやってきたんだ」

「なるほど。私は三千年以上この地で生きておりますので、もちろん魔王と四神獣の戦いは知っております。ですが、この西大陸で魔族領という話を聞いた事がないような気がします」


 ナターリエが魔族領の話を聞いた事がないのか。

 だが、バンシーは知っていたんだけどな。


「一応、情報としては南にあるという話なんだが」

「南……ですか? ここから南へ向かうと荒れ地に出て、砂漠と海になりますね」

「む……そうなのか。だが、行ってみるしかないな」

「なるほど、わかりました。では……あっ!」


 ナターリエが何かをしようとして、止めた……のか?

 何やら、しまった……という感じの表情を浮かべる。


「うーん。私がドラゴンの姿になって、みなさんを背に乗せて飛ぼうと思ったのですが……どうやら、この状態ではドラゴンの姿にはなれないようです」

「まぁ元は俺の人形だからな。流石にそこまでは無理なのだろうな」

「お役に立てず申し訳ありません。ツェツィはドラゴンの姿になる事は出来ますが、誰かを乗せて飛ぶというのは、ちょっと難しいので、控えていただければと」

「いや、気にしないでくれ。ここまでも陸地を進んできたから、大丈夫だろう」

「なるほど。どこかに乗り物があるのですね」


 乗り物……あ、いや。無いんだけどな。

 馬車が調達出来れば良かったんだが、獣人は馬車に乗る習慣がないのか、街や村に馬車がなく、ここまで自分の足で来た……うん。ツェツィやシアーシャ、グレイスの三人は体力的にキツいだろうし、次の街か村で何か探そう。

 次の街や村までツェツィが厳しいようであれば、ユーリをおんぶするように、俺がツェツィを抱っこして歩こう。

 新たにツェツィとナターリエが加わり、改めて南へ――白虎を助ける為に魔族領を探す事にした。

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