第716話 ナターリエ
「私はナターリエと申します。人間に換算すると、三十半ばくらいでしょうか。ツェツィ……ツェツィーリエの母で、竜人族の黄竜種です」
俺の姿で、声だけ女性のナターリエが深々と頭を下げる。
「俺はアレックスだ。訳あってブラックドラゴンと戦い、俺たちが勝利したのだが……どうやら、奴の死によって呪いが発動してしまったみたいなんだ。すまない」
「なるほど。あなた様が奴を殺して下さったのですね。重ね重ねありがとうございます」
そう言って、ナターリエが経緯を話しだす。
何でも、ブラックドラゴンの男が、子孫を残す為に、黄竜……イエロードラゴンの村を襲ったらしい。
ナターリエの夫を含め、黄竜の男性は全員殺され、女性はブラックドラゴンが無作為なのか、気に入った者だけかはわからないが、半数を奴隷にし、残りを全員殺したと。
「……アレックスさん。おそらく、ヴァレーリエさんを失ったので、やり直したのかと」
「……そうだろうな。この場にヴァレーリエが居たら、怒りで暴れていただろうな」
小声でシアーシャと話しつつ続きを聞いていると、ツェツィを除き、成人の黄竜が全員慰みものにされ、子を宿した女性が自ら命を絶っていったと。
ナターリエも子を宿されてしまったが、ツェツィを守る一心で耐え……今に至るらしい。
「そういう訳ですので、私としては奴の子を宿した身体を失い、かつツェツィと話が出来る今の状態が最善でして、本当に感謝しております」
「……あの男。一撃で終わらせるんじゃなくて、もっと苦痛を味合わせておけば良かった」
ザシャが怒りながら、近くの壁を殴る。
気持ちは分かるが、洞窟は崩壊させない態度で頼む。
その一方で、シアーシャが冷静にナターリエに話を聞く。
「しかし、ナターリエさんには奴の子が居たんですよね? それなのに、どうしてあんな呪いを……」
「アレの最中に襲われるのを恐れたのかと。奴隷にされて直ぐに、奴が死んだら私たちも死ぬという呪いがかけられましたので。それに、子を宿した事は、奴には言っていませんから」
なるほど。
ひとまず、あの男が許されざる者だという事はよく分かった。
既に死んでいるので、これ以上どうしようも無いが。
「事情はわかった。辛い話をさせてしまってすまない。だが、これから行くあてはあるのか?」
「いえ……残念ながら。ですが、このお身体をお借りしているので、どうか私たちを傍に置いていただけないでしょうか」
「それは勿論構わないが、俺と同じ姿というのが、色々とマズい気がするんだ」
その……偽造スキルは俺の身体と全く同じなんだが、ナターリエは女性な訳で。
ここに居ない女性陣と会った時に、いろいろと面倒な事になる気がするんだが。
「それなら……あ、大丈夫そうです。先程、声を変える事が出来たように、私の魔力で干渉して……えーいっ!」
ナターリエの大きな声と共に、その姿がツェツィが抱きついていた、長い金髪の女性の姿に変わった。
「えぇ……スキルの効果を、魔力で無理矢理捻じ曲げるなんて。無茶苦茶ですの」
「まぁでも、この姿の方がツェツィも安心するだろうし、俺も安心する。というか、その姿をツェツィに見せてあげようか」
「はいっ!」
本来の姿になったナターリエが洞窟の奥へ走って行くと、
「え……お母さんっ!? あ母さーんっ!」
奥からツェツィの声が聞こえてきた。
ひとまず、ツェツィは大丈夫かなと思いながら、俺も奥へ向かうと、ツェツィがジッと俺を見つめてくる。
「お母さんから、あの人の魔力を感じる」
「えぇ。お母さんは、アレックスさんの力で、こうしてまたツェツィと一緒に居られるの」
「……じゃあ、アレックスさんがツェツィの新しいお父さん?」
……ん? あれ? 何か話がおかしくなってないか?
「あと、お母さん。何故か身体が細くなって、おっぱいが大きくなってるよ?」
「ツェ、ツェツィ!? お、お母さんは元々こんな体型よ?」
「それに、若くなってる気がするー!」
「待って! ツェツィ!? お母さんは何も変わってないから! こっそり補正なんてしてないからぁぁぁっ!」
あー、確か三十くらいって言っていたけど、二十代半ばに見えるな。
ま、まぁ女性は若くなりたい願望があるらしいから、仕方ない……よな?
……たぶん。
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