第715話 竜人族の母娘

「うぅ……お母さん」


 ツェツィが母親の身体に覆いかぶさり、ずっと泣いている。

 残念ながら、全く落ち着きそうにない。

 だが、ディアナよりも幼い……下手をすればレヴィアよりも幼い少女だ。

 母親が亡くなったのに、すぐ落ちつける訳もないか。

 ひとまず待つしかないかと考えていると、シアーシャがそっと耳打ちしてきた。


「……アレックスさん。いろいろ調べた結果、竜人族だからか、それとも呪いの効果か、魂はまだ現世に留まっていますの」

「……それは、生き返らせる事が出来るという事なのか?」

「……流石にそれは無理ですの。亡くなった方を蘇らせるのは天使族でも無理で、可能性があるとすれば神族ですが……おそらく、かなり高位の神族でないと不可能かと」


 まぁ普通に考えればそうだよな。

 亡くなった人を蘇生するなんて、相当な力がないと無理だろうし、自然の摂理に大きく反する。

 ツェツィは可哀想だが、どうする事も出来ない。

 そう思っていたのだが、シアーシャが気になる事を言ってくる。


「……それで、ですね。アレックスさんの人形を作るスキルがあるかと思うのですが、ユーリさんのお話によると、アレックスさんは逢瀬スキルで意識だけを飛ばした状態で、その人形の中に入れたとか」

「……あぁ、そうだな」


 おそらく、メイリンの人形経由でユーディットからユーリに話が伝わったのだろう。

 確かに偽造スキルで作った俺の人形の中に、逢瀬スキルで入る事が出来たな。


「……って、シアーシャ。まさか……」

「……はい。普通の人間では当然出来ませんが、多大な魔力を持っている竜人族である事と、その魂が居る事から、やってみる価値はあるかと」

「……いやでも、偽装スキルは俺の姿にしかならないんだが」

「……ですが、もしも成功すれば、ツェツィさんを慰める事は出来るかと」

「……わかった。ダメ元でやってみよう。≪偽造≫」


 シアーシャの案――俺の偽造スキルにツェツィの母親の魂を入れるという無茶な案を、試すだけ試してみようという事で、ツェツィの傍に俺の人形を生み出してみた。

 俺にはツェツィの母親の魂というのは見えないが、シアーシャやザシャ、ユーリの三人には見えているらしく、何やら手に汗握る状況のようだ。


「も、もう少しですのっ! 怖がらずに飛び込んで欲しいですのっ!」

「あとちょっとだ! 頑張れ! まずは少しだけだけで良いから、入れてみるんだ!」

「あっ……はいったー!」


 ユーリ曰く、俺の人形の中にツェツィの母親の魂が入ったらしい。

 そして少しすると、ずっと泣き続けていたツェツィが、何かに気付いたように顔を上げる。


「この魔力……お母さん!? でも、さっきの魔力をくれた人……一体、どうなってるの?」


 ツェツィが俺の人形に抱きつき、顔を埋めて何かを感じ取っているようだ。

 ただツェツィの背が低いため、顔の位置が非常にマズい場所に埋められているので何とかして欲しいのだが。

 そんな事を考えていると、突然俺の人形が喋り出した。


「ツェツィ、無事で良かったわ。この人たちが助けてくれたのよ」

「この話し方は……お母さん! お母さんだーっ! でも、どうして男の人の声なの?」

「それは……ちょっと色々と理由があるんだけど、それよりも先に助けてもらったお礼をしましょ」

「う、うん」


 そう言うと、俺の人形がゆっくりとこちらを向く。

 シアーシャによると、ツェツィの母親の魂と、俺の人形がまだしっかりとリンクしていないが故に、動きが遅いらしい。

 だが少しすると、俺の人形がスムーズな動きで深々と頭を下げ、先程と声も変わって女性の声になっている。


「先程は、娘のツェツィを助けてくださいまして、本当にありがとうございました。その上、殺された私に、このような動ける身体を提供いただき、本当に感謝しております」

「……自分自身と会話するのは変な感じだが、ツェツィを助けられる事が出来て良かったよ。ただ、貴女を助ける事が出来ず、申し訳ない」

「いえ。私は娘を貴方様たちが来てくださるまでに時間を稼ぐ事が出来ましたので、十分です。それにこの身体は、ブラックドラゴンによって穢されておりますので」

「……何があったのかを聞いても大丈夫ですか?」

「はい。ですが、娘の居ない場所で話させてください」


 母親がツェツィに言い聞かせ、ディアナとユーリにみていてもらう事に。

 他のメンバーで母親と共に洞窟の入り口近くまで移動して、話を聞かせてもらう事にした。

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