第894話 朝風呂

 翌朝……昨晩トレーシーを寝かしつけ、俺もそのまま眠ってしまったのは、何となく覚えている。

 今も、俺の腕の中でトレーシーが眠っているしな。

 背中をトントン叩いたまま、俺も眠ってしまったんだ。

 だが、それは良いとしても、どうしてミオが俺の上に座っていて、モニーがジト目で俺を見ているのだろうか。


「……父上。その子は一晩中抱きしめられていたのに、どうして私はダメなのでしょうか」

「……いや、普通にダメだろ」

「……しかし、メイドさんから聞きましたが、その子は父上のを太ももで挟んでいたとか。

「……見間違いだと思うが」


 トレーシーが起きないように、モニーと小声で話しているのだが……一体、あのメイドさんは何を言っているんだ!?

 そんな事をするはずが……って、今の会話のせいか、トレーシーが目を覚ましてしまった。


「ん……お兄ちゃん。おはよ」

「あぁ、おはよう」


 さて、どうやってこの状況を抜け出せば良いんだ?

 ミオが暴走していて、トレーシーが起きたのに止める気配がない。


「あれ? 今、後ろで変な声が……ミオお姉ちゃん? 一体何して……うわぁっ! お兄ちゃん!? 急に動いちゃダメだよー! びっくりしちゃったよー!」

「~~~~っ!」

「さ、流石は父上です。まさか、あの状況からごく僅かな一瞬の突きでミオさんを満足させるなんて。それで、私の番はまだでしょうか?」


 モニーがよく分からない事を言っているが、ひとまずミオがぐったりして動かなくなったので、分身を解除すると、トレーシーとミオの身体を抱える。

 トレーシーの視界にアレが入らないように気を付けながら、ミオをベッドに寝かせると、そのまま風呂へ。

 来客用の部屋だと思うが、部屋に風呂が付いていて良かったな。


「お兄ちゃん。朝からお風呂へ入るのー?」

「あぁ。朝の風呂は気持ち良いんだぞ」

「そうなんだー! じゃあ、私も入るー!」


 トレーシーは本当にただ風呂へ入るだけだから問題ないだろう。

 幼学校でも一緒に入っていたが、マリーナと泳いでいたしな。

 そんな事を考えながら脱衣所から風呂場へ行き……しまった。やらかした。

 昨日の幼学校の風呂をイメージして、一緒に入って良いと言ってしまったが、ここはレイチェルの家の風呂……それも、客室に備え付けられている風呂なので、一人用の広さだ。


「トレーシー。すまない。思っていたよりも狭かったから、一緒には……」

「大丈夫だよー! 私の身体は大きくないもん! それに、お兄ちゃんと一緒に入りたい!」

「し、仕方がない……わかった」


 昨晩、トレーシーがずっと独りぼっちだという話を聞いてしまっているからな。

 だが、メイドさんやミオがいろいろしているので、身体を洗ってから……


「お兄ちゃん! 私が洗ってあげるー!」

「流石にそれはダメだ」

「えぇー! 洗いっこしたいなー!」

「……背中なら」

「わーい! お兄ちゃん、大好きー!」


 まぁ本当にわかっていないだけだから、良しとするか……って、感触がおかしい!

 この手つきは、どういう事だ!? 小さな手が俺の背中を擦っているし、おかしい……って、おい。


「モニー」

「だ、だって、この子ばっかりズルいです! 父上、私も一緒に入りたいですっ! いつもいつも見ているだけなんですよぉぉぉっ! せめて一緒にお風呂へ入るくらいは良いじゃないですかぁぁぁっ!」

「はぁ……余計な事はするなよ?」

「はいっ!」


 トレーシーとモニーの二人に身体を洗われ、続いてトレーシーとモニーの身体を洗い、一人用の浴槽へ。


「あははっ、狭ーい!」

「そうですね。ですが、それが良いんです! 父上、くっついているのは不可抗力です。仕方ないんです!」

「……まぁ楽しそうだから今回は良しとするか」


 三人でしっかり身体を綺麗にし、ゆっくり温まって風呂を出ると、


「……アレックス殿。よ、幼女二人と一緒に風呂とは……な、何を考えているのだっ!」


 モニーを探しに来たというモニカが部屋にいて……全力で誤解を解く事になってしまった。

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