第310話 リザードマンの村への来訪者

「じゃあ、行ってくるよ」

「うん、いってらっしゃい! 今晩は向こうに泊まるんだろうけど、明日はちゃんと帰って来てね」

「こちらの守備は私に任せるのだ。だからその……明日はご褒美を……」


 エリーやネーヴを始めとした皆に送りだされ、行動を共にする人形たち――サクラとユーディットの人形と共に、ソフィの魔導列車に乗り込むと、ゆっくりと動き出す。

 どうやら、ユーディットの人形ユーリが、向こうに居る人形を介してソフィに出発タイミングを告げてくれているそうだ。

 東の休憩所へ無事に到着し、洞窟を抜けてリザードマンの村へ差し掛かろうという所で、


「アレックス様。少しだけお時間をよろしいでしょうか」


 第二班として活動を指示していたツバキが待っていた。


「何かあったのか?」

「はい。リザードマンの村で少し。ヌーッティ殿も困っているようで、アレックス様にご相談したいと」

「わかった。すぐに村へ向かおう」

「いえ、ヌーッティ殿はその現場に居りまして……案内致します」


 リザードマンの村長、ヌーッティさんの家がある湖南の村を通り過ぎ、大きな湖をぐるっと回って、湖東の村を少し北へ行った所でツバキが足を止める。

 そこにはヌーッティさんと、兎耳族の村へ初めて行った時に案内してくれたリザードマンの若者ペルットゥさんに、何故かミオが居た。


「ミオ? どうしてこんな所に?」

「おぉ、アレックス! 昨日の分身は凄かったのじゃ! 是非とも、今晩もあのように激しくして欲しいのじゃ」

「それは……まぁ後で聞こう。で、ここに居る理由は?」

「あれなのじゃ。とりあえず、結界で動きと魔法を封じておるが、どうしたものかと思っていたのじゃ」


 ミオの示した先には、湖の中に一体のマーメイドが居た。

 話を聞くと、早朝にペルットゥさんが発見し、急いでヌーッティさんに報告したのだとか。

 ヌーッティさんが海へ帰るように呼び掛けたが、話も聞かずに攻撃魔法を放ってきたそうなので、常駐している人形たちを介して俺に相談しようとしたらしい。

 しかし、既に俺が家を出た後だったので、メイリンが先にツバキとミオを派遣したそうだ。


「とりあえず、海へ帰してあげるべき……だよな?」

「まぁマーメイド族は、海で暮らして居るのが普通なのじゃ。ただ、淡水で生きるマーメイドというのも、聞いた事はある気がするのじゃ」

「なるほど。とりあえず話を聞いてみたいのだが……攻撃魔法を使ってくるのか」

「うむ。随分と狂暴なマーメイドなのじゃ。今は遮音の結界で魔法を使えぬようにしているが、喋る事も出来ないのじゃ」

「こっちの声は向こうに聞こえるんだよな? とりあえず話し掛けてみるよ」


 目と目を合わせて話すべきだろうと、革鎧や服を脱ぎ、念の為に剣だけ持って湖の中のマーメイドの側まで泳いでいく。


「俺はアレックスだ。君は、海から来たのか?」


 マーメイドに話しかけると、最初は近付く俺に気付きながらも、顔を背けていたのだが、突然ビクッと身体を震わせ、何度も激しく頷きだす。

 今のは……何かに気付いた?

 だが、後ろを振り返ってみても何も無く、湖のほとりでミオたちがこっちを見ているだけだった。

 よく分からないが、コミュニケーションは取れるようなので、話を続ける事に。


「君は、海へ帰りたいが帰れないのか?」


 激しく首を横に振る……ノーって事か。


「何か目的があって、ここへ来たのか?」


 次は首を縦に……イエスだな。

 暫くやり取りをして、害意は無い事を示してくる。

 実際、話しかけた直後と違って敵意は感じなくなったし、ヌーッティさんに話しかけられた時は、驚いてつい攻撃してしまったのだとか。

 まぁ海に棲むマーメイドはリザードマンを見た事がないよな。

 俺も初対面の時は魔物の類だと思ってしまった訳だし。


「もう少し詳しく話を聞きたいから、この結界を解いてもらおうか。俺は君と戦う気はないから、攻撃しないでくれよ?」


 そう言うと、マーメイドが激しく首肯するので、ミオに結界を解いてもらうと、


「あ、あの。我……じゃなくて、私はレヴィア……げふんげふん。ラヴィ……そう、ラヴィニアと言います」


 マーメイドがぎこちなく頭を下げてきた。

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