挿話91 水の四天王の配下、悪魔のレヴィアタン

「ここから西に向かって川を登れば、第四魔族領のはずだな。ここまで泳いで来るのは大変だったが、相手は人間族だから、戦闘自体は一瞬だろう」


 水の四天王デドリックに言われ、海を渡って第四魔族領を取り戻しに来た。

 海の魔物たちから聞いた話では、第四魔族領の東側の川から地底湖へ行けるらしいが、残念ながら我の身体が進める程に川が大きくないため、普段から操っているマーメイドを向かわせる事に。

 このマーメイドはまだ若く、魔力も我の一割にも満たないのだが、人間族の勇者と呼ばれる者たち程度なら余裕で勝てるので、大丈夫だろう。

 まぁ相手が水辺に寄って来なければ戦えないという弱点はあるのだが、幸いこのマーメイドは人間族にはかなり美しく見えるらしく、水から上がって居れば向こうから近寄って来るからな。


「チッ……相変わらず、このマーメイドは泳ぐのが遅いな。そもそも、どうしてマーメイドなのに乳が大きいのだ! 泳ぐのに邪魔なだけではないか」


 無駄に魔力と体力を消耗し、川を上り切って小さな湖へ辿り着いたので、マーメイドを水面に出して休憩させていると、


「そこのマーメイドよ。ここは我らリザードマンの湖だ。海へ戻るが良い。もし道に迷っているのであれば、東に行けば海に着くぞ」


 水辺から中年のリザードマンが声を掛けてきた。

 ……うるさいな。


「≪水の刃≫」


 マーメイドに精霊魔法で攻撃させると逃げて行ったが……人間族ならば、今の一撃で死んでいるはずだが、リザードマンに水魔法は効きにくいのかもしれないな。

 まぁそもそもとして、マーメイドを介しているから、この程度の攻撃しか出来ないのが問題なのだが。


「しまった。今のでマーメイドの魔力を更に使ってしまった。こいつの体力が回復したら、水の中で休憩させるか」


 とりあえず、体力を回復させるため、水面に浮かべてぼーっとさせていると、


「≪閉鎖≫と≪遮音≫」


 唐突に結界が貼られ、動きと魔法が封じられてしまった!?

 この力は……九尾の狐かっ! どうして、そんな奴が第四魔族領に居るのだっ!?

 くそっ! たかがリザードマンだと油断していた。

 何とか結界を破り、海まで――我の所へ誘導させないと、流石にマーメイドで九尾の狐には勝てないと思っていると、


「俺はアレックスだ。君は、海から来たのか?」


 新たに人間族が……いや、人間族なのか? 物凄い魔力を持った化け物が現れた。

 な、何なのだ!? こいつは九尾の狐どころではない。

 見た目は人間族の男だが、内包している力が人間族のそれではなく、下手をすればデドリックよりも強い気がする。

 おそらく、こいつが土の四天王を倒したのだろうが……ど、どうする!? 普通に戦っては絶対に勝てない。

 海中で戦えば勝てるかもしれないが、人間族は水中で息が出来ない為、余程の理由が無いと追って来ない。


 ……そ、そうだ。このマーメイドをこいつらの仲間にさせよう。

 なんなら、このアレックスとかいう人間族と交尾をさせれば、いろいろと弱みを握る事が出来るかもしれない。

 マーメイドがこいつに信頼され、寝首を掻ければ良いのだが。


「あ、あの。我……じゃなくて、私はレヴィア……げふんげふん。ラヴィ……そう、ラヴィニアと言います」


 よし。このマーメイドはラヴィニアという名前にしよう。

 それから、この男の妻だという記憶を植えつけて……後は一時的に我の操作から解放しようか。

 解放中はリアルタイムで情報が得られなくなるが、数日間はラヴィニアに任せ、再度我の支配下に戻せば、その間に得た情報が我に入って来るしな。


「わ、私……アレックスの事が大好きですー! 結婚してくださーい!」


 うむ。これで大丈夫だろう。

 人間族に媚を売るなど、我ながらかなり気持ち悪いが、我の完璧な演技でアレックスとやらは、すっかり騙されているはずだ。

 では、操作を……解除! あとはラヴィニアが上手くやってくれる事を信じよう。

 しかし、こんな化け物が第四魔族領に居るとは思いもしなかったな。

 だが、何も正面から戦うだけが戦いではない。こういう搦め手も、我が得意とする所だ。

 ふっふっふ、ラヴィニアよ! この人間族を心の底からお前の虜にしてしまうのだっ!

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