挿38話 何かに目覚めつつある勇者ローランド

「ローちゃん、大変よぉーっ!」

「何だよ、うるせぇなっ!」

「いやん。冷たい目のダーリンも素敵っ!」


 誰がダーリンだ、誰が。

 緊急会議とやらから戻って来た、ゴリラみたいなオッサン――ハンナに抱きつかれ、俺の心がバキバキに折れそうになった所で、勇者のスキルが自動で発動する。


 ≪諦めない心≫――勇者のジョブを授かった時、一緒に与えられたスキルだ。

 例え、どれだけ苦しい状況に陥ったとしても、決して俺の心が挫ける事はない。

 ない……のだが、流石に毎晩オッサンのアレを後ろから……あ、またスキルが発動した。

 とりあえず考えるのは止めて、勇者として頑張るか。


「で、何だよ。何が大変なんだよ」

「それがね、メイリンとかっていう名前の、災厄級のスキルの一つを持つ少女が逃げたんだって」

「災厄級のスキル?」

「えぇそうよ。使い方を間違えなければ、二つや三つどころではない国が滅びるスキルね」


 国が滅びる災厄級のスキル……って、そんなのヤバ過ぎるだろ。

 どんなスキルかは知らないが、魔族を召喚して使役したり、大きな災害を起こしたりするスキルだったりしたら、洒落にならないだろ。


「ん? 待てよ。逃げたって事は、そのスキルを持っていたメイリンって女を捕らえていたのか?」

「そうよ。そんな悪魔みたいなスキルを持つ女なんて、さっさと殺……こほん。処理しておけば良かったのに、自分たちが使いたかったのか、生かしていて、その上逃げられただなんて……ほんと使えないわよね。聖女のくせに」

「聖女? どういう事だ?」

「その災厄級のスキルなんだけど、色々あって男を近付けちゃいけないのよ。それで、聖女を擁する男子禁制の国が管理していたんだけどね」


 男を近付けてはいけないスキル……魅了系のスキルって事か?

 だが災厄級と言うくらいだし、男子禁制の国が管理していた事から、おそらく影響範囲が恐ろしく広いのだろう。

 しかし、それにしても男子禁制で聖女が居る国か。

 聖女っていうくらいだから、めちゃくちゃ綺麗で優しくて、その上処女に違いない。

 周囲に男が居ないというし、男を全く知らない聖女……うぉぉぉっ! 行きたいっ! この際、聖女でなくても、周囲にいるであろう侍祭でも良い!

 女しか居なくて、男に飢えているであろう秘密の園に行きたいぞぉぉぉっ!


「ねぇ、ダーリン。私の話を聞いてる?」

「あ? 何だっけ?」

「もぉっ! だから、その災厄のスキルを持つ女の捜索に、私も選ばれてしまったのよ! だから、暫くダーリンと会えなくなっちゃうのよっ!」

「な、なんだってー!」


 やった! このオッサンからやっと解放される!

 もう毎晩地獄のような時間を過ごさなくて良いんだ!

 誰か知らないが、良くやった! 災厄スキルを持つメイリンって女!


「……しかし、災厄スキルの女を探すという事は、その聖女とやらの所へ行くのか? それなら俺も行きたいのだが」


 上手くいけば聖女とやらのお近付きになれるかもしれないし、そこまでは無理だったとしても、女だけの国……夜の相手は選り取り見取りだ。

 それに、第三魔族領なんかに行って、魔族と戦うよりは、その女を探す方が絶対に安全だろう。

 捕まえた後は、拷問という名目でそのメイリンとやらに色んな事を出来そうだしな。ふへへへ……。


「ローちゃん、ありがとう。そんなに私と一緒に居たいのね?」

「……は? いや、違……」

「だけど、ごめんね。いくらダーリンのお願いでも、この任務に男性は絶対に参加出来ないんですって。その災厄のスキルによって、敵の戦力に取り込まれてしまうから」

「……男は絶対にダメって、お前は……いや、何でもない」


 一先ず、ようやくこのゴリラから離れられると喜んでいると、


「じゃあ、ダーリン。暫くお別れだから、最後にいっぱい愛し合いましょう!」

「おい、やめろっ! こんな昼間っから盛るなっ!」

「ふふっ……ダーリンったら、照れちゃって。昨晩もあんなに激しく求め合ったのに」

「俺は求めてねぇっ!」

「さぁ、時間が無いわっ! 私は六時間後に出発しちゃうから、六時間一切休憩無しで愛し合いましょうっ!」

「ろっ……ふっ、ふざけんなっ! おい、この手を放せっ! このゴリラ野郎っ! おい、誰か助けてくれぇぇぇっ!」


 ゴードンちゃんはともかく、ダニエルはこのゴリラを止められるだろっ!


「愛する二人を邪魔する訳にはいきませんからな。暫く離れ離れになる訳ですし、今日は目を瞑りましょう」

「ローランドさんも、ハンナさんも、別れが辛そうですね」


 だから、愛し合ってなんてねぇよっ! 一方的に俺が襲われているんだよっ!

 くっ……このゴリラから解放されたら、絶対にゴードンちゃんを襲ってやる!

 ……って、ゴードンちゃんも男だよっ! 正気に戻れ、俺ーっ!

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