第462話 崖の上のアレックス

「パパー! このがけ、ニースほれるよー!」


 リディアが魔法で穴を開け、船型の家を格納した場所を調べていたニナの人形ニースが、この崖を掘れると言ってくれた。

 可能であれば、崖の上の様子を見ておきたかったからな。

 リディアが夕食を作ると言うのと、レヴィアは流石に休憩させる。

 ラヴィニアは陸には上がれないので、家で待機してもらい、ミオは結界で家を守ってもらう事にした。


「ご主人様。では私はご主人様の護衛に……」

「護衛と言われても、俺はニースと一緒に崖を掘るだけだぞ? 俺も穴掘りスキルを持っているしな」

「では私は何を……」

「そうだな。では、これを託す」


 モニカに釣竿を渡し、夕食兼俺のスキル強化担当をお願いした。

 当初思った通り、海はやはりスキルの宝庫というか、ラヴィニアが魚を沢山捕まえてくれて、いろいろとスキルが増えたからな。


「わかりました! ご主人様の為に、頑張ります! えっと、エサは聖水でしたっけ?」


 モニカの聖水を撒くと、近くの魚系魔物が死んでしまうと伝え、普通に釣りをしてもらう事に。

 それから俺は、ニースと一緒に崖を斜め上に向かって掘り始める。


「ユーリ。これくらいの角度でこのまま上に掘って行ったら、何がありそうか見て来てくれないだろうか」

「はーい! まっかせてー!」


 ユーリがふわふわと飛んで行き、少しすると戻って来た。


「パパー! あのねー、むら……なのかなー? テントがいっぱいあったのー!」

「テントか。何にせよ、見て話してみないと分からないか。ユーリ、ありがとう」

「ううん。パパー、なんでも、いってねー!」


 ユーリにお礼を言い、改めてニースと掘り進める。

 暫くすると……早くも崖の上まで到達出来てしまった。


「流石ニースだな。こんなに早く崖の上に出られるなんて」

「パパが、てつだってくれたからだよー!」


 ニースの頭を撫で、労ったところで、家に戻って休んでもらう事にした。

 日は完全に沈んで月が出ているが、リディアの食事まで少し時間が掛かりそうなので、少しだけ……少しだけ崖の上を見てみる。

 石の壁で家へと繋がる穴を塞ぎ、少し歩くと……あった。これがユーリの言っていたテントか。

 手前に一つ、大きめのしっかりとしたテントがあり、その奥には小さめのテントが十個ほど不規則に建てられている。


「一番大きなテントは、一番偉い者が使う……よな?」


 とりあえず、敵意が無い事だけ伝えておこうと、大きなテントの中へ。

 中では大きなベッドの上に、二十歳くらいの女性が一人で座っていた。


「失礼する。いきなりすまない。俺は……」

「おぉ、凄いな。戦の火照りを抑える為の、マジックアイテムはここまでリアルなのか」


 え? 何の話だ? と思って居ると、


「え、えいっ! おぉ……こ、これは流石にやり過ぎではないのか? その、本物を見た事はないが、聞いた話だとこの半分も無いはずなんだが」


 その女性がいきなり俺のズボンを降ろしてきた。

 いや、マジで何をしているんだよっ!

 だが、文句を言おうとしたのだが、何か変な感じがする。

 分身も出して居ないのに、既にアレが臨戦態勢だし、誰かに触られている感覚さえあるんだが。

 もしかして、このテント内に変な魔法効果があったりするのだろうか。


「とりあえず、こっちへ。代々伝わるマジックアイテムらしいが、私は初めてだから、優しく頼むぞ。えっと、こ、こんな感じか? マジックアイテムだと分かっていても、人前で足を開くなんて恥ずかしいな」

「いや、待ってくれ。俺は……」

「そんな焦らし機能まであるのか? 凄くリアルだが、代々このマジックアイテムは、満月の夜に戦いがあった時だけ使用を許可されるのだろう? 私が遊撃隊長となって、初めてタイミングが合ったんだ。その、早く頼む」


 ……満月の夜!? しまった! 変な感覚だと思ったら、兎耳族だっ!

 満月の夜は、兎耳族の月魔法が強化されて、魔族領で使われている俺の分身と感覚が繋がるんだった!

 兎耳族が月魔法で三体の俺を作り出したとして、その三体が分身と複製スキルを使用したら、五十四体の俺と感覚が繋がっている事になり……って、だからこんな事にっ!?

 しかも、目の前の女性が早くしろと、俺の腰を思いっきり引き寄せ……あぁぁぁっ! 兎耳族たちも同じタイミングで始めたのか、凄いのが来るっ!

 こんなの無理だぁぁぁっ!

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