第934話 ネーヴの故郷へ

 翌朝。眠そうなネーヴが目を覚ましたので、ハヤアキツヒメについて話を切り出す。

 昨晩は全く話を聞いてくれなかったが、今ならきっと大丈夫なはずだ。


「おはよう、ネーヴ。頼みがあるんだ」

「おはよう。朝からどうしたのだ? アレックスの頼みとあれば、何でも聞こうではないか」

「実は、ネーヴの国へ行きたいんだ。というのも……」

「そうかっ! ようやくかっ! 流石はアレックスだ! こうしてはいられない! 急いで準備をしなければ!」


 少し話しただけで、ネーヴが全てを理解してくれたようで、ガバッと身体を起こす。

 ネーヴにハヤアキツヒメの話はまだしていないのだが……メイリン経由で聞いていたのだろうか。

 あっという間に身支度を整えると、部屋を出て行った。

 ひとまず俺もネーヴの後を追う為、分身を解除して、着替えを済ませて廊下へ出ると、一階からネーヴの声が聞こえてくる。


「ふむ……ジャーダ、ジョヴァンナ。出掛けるぞ! お主たちの足の速さを活かして欲しい」

「えっ!? ネーヴ!? 私たち、一睡もしてないよー?」

「そうだよー! アレックス様が来てくれたのが久しぶりだし、分身を解除するギリギリまでしてたもん!」


 もしかして、ネーヴは今すぐ出発しようとしているのだろうか。

 足の速い馬耳族の二人に声を掛けてくれているのはありがたいが、馬車なら俺が引くという手もあるんだが。

 いつもグレイスが空間収納で馬車を出してくれているが、このウラヤンカダ村にも一台馬車があったはずだし。


「ネーヴ。村にある馬車を借りる事は出来るだろうか。あの馬車を俺が引いて走れば、それなりの速度で移動出来るが」

「アレックスが馬車を……? ちょっと意味が……」

「いや、そのままの意味なんだが」


 西大陸での移動方法について説明し、ネーヴが理解してくれたが、この村にある唯一の馬車なので、他所へ持って行ってしまうと村の生活が危ういという話に。

 とりあえず第四魔族領まで行ければ良いので、ネーヴとレヴィアを俺が抱きかかえて走るという事に決まった。


「あの、運んでもらえるというのは、一体どのようにして……」

「ん? これではダメか?」

「お、お姫様抱っこ!? あ、アレックスの顔が近……よ、よろしく頼む」


 話を聞くと、ネーヴが近くの街へ移動する時に、ジャーダやジョヴァンナにおんぶして運んでもらっていたらしい。

 おんぶならネーヴも慣れていそうなのだが、今はレヴィアが背中にしがみついているからな。


「……ネーヴの顔が紅い。体調が悪い?」

「い、いや、そういう訳では……」

「初々しくて良いんじゃないかなー? カスミちゃんはお姫様抱っこよりも、抱きかかえてもらいながら走る方が好きだけどー」


 レヴィアとカスミも心配しているが、ひとまずはこの体勢で我慢してもらい、ネーヴが必要だという大きな荷物をカスミとサラが運んで第四魔族へ戻ってきた。


「アレックスー! おかえりー!」

「ただいま、エリー。だが、今からネーヴの国へ行ってくるよ」

「事情はメイリンさんから聞いているわ。昨日モニカさんと話したけど、ちょっと変な感じがするし、元のモニカさんの方が……いやでも、うーん」


 エリーが頭を抱えているが、いずれにせよスキルのせいで言動が変わってしまったというのは良くないだろう。


「ところで、ネーヴさんの国にはどうやって行くの?」

「スノーウィとの交易で使っている召喚魔法ポイントがあるだろ? そこへ手紙を置いておき、ネーヴの国へ招いてもらいたい旨を書いておこうと思うんだ」

「むっ!? アレックス。そんな悠長な事をしている時間が惜しい。私が許す! このまま召喚ポイントへ行って、私の故郷へ行ってしまおう!」


 エリーと話していると、傍に居たネーヴがちょっと危ない事を言う。

 この第四魔族領とネーヴの国は、正式に友好国という扱いになっており、この第四魔族領で一応の国王扱いになっている事を知っている……というか、少なくとも偉い立場にいるスノーウィがそういう認識をしている。

 その俺と、追放された元宰相のネーヴがいきなり現れたら、向こうがパニックになるんじゃないか?

 そう説明したのだが、ネーヴが頑として譲らない。


「この大事な時に、そのような些細な事は問題ない! さぁアレックスよ! 私の故郷へ行くのだ!」

「本当に大丈夫なのか?」

「もちろん! 何か言ってくるような者がいれば、私が全て黙らせてみせよう!」


 いや、それが一番マズい気がするのだが。

 ひとまず、いつもネーヴの国が召喚魔法を使う時間までに準備を整える事にした。

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