第855話 正面突破のアレックス

「では、行ってくる。すまないが、その……ホールに居る女性たちをお願いしたい」

「アレックス様。お任せください。ですので、戻って来られましたら、また分身さんをお願い致します」

「私もお願いします! そして、デイジー王女もお願い致します」


 メリナ商会の元締めであるザガリーと、この国のデイジー王女の結婚式を止めるべく、レイチェル母娘に見送られて屋敷を出発する。

 もちろん分身は消しており、ホールに居る女性にはレイチェルの家のメイドさんたちから、事情を説明してくれるそうだ。

 ちなみに、今回は暴れ足りないというオティーリエと、太陰の事が気になるミオ。それから、万が一に備えて治癒係のフョークラに、俺から離れようとしないマリーナの五人で行く事になった。


「飛んで行けばすぐなんだけど、流石に朝は目立っちゃうよね」

「そうだな。式は夕方だと言っているし、目立たないように行こうか」


 今回はどこにあるかわからなかったメリナ商会の本部ではなく、街の中心にある一番大きな建物……王城が目的地なので、迷う事もないだろう。

 という訳で、マリーナをおんぶして大通りを歩いていると、フョークラが口を開く。


「……あの、アレックス様。式は夕方だというお話でしたが、王族の結婚式ですよね? 実は既に何かしらの儀式というか、伝統的なしきたりの手続きが行われていないでしょうか?」

「ふむ。なるほど……有り得なくはないか」

「実際、私たちダークエルフは、式の前に夫婦となる者たちが愛し合ってから、改めて式を行う……なんて聞いた事もあります」

「……万が一そんな事になったら、デイジー王女が可哀想だな。……急ぐか」


 俺の故郷ではフョークラの言うようなしきたりは無いが、ここは遠く離れた西の大陸に近い国だ。

 どういう文化なのかは分からないし、急いだ方が良さそうだな。


「という事は、私の出番ね。じゃあ……うん。あの広場にしましょう。あれくらいの広さがあれば十分よ」

「あっ……そ、その。自分で言っておいて何だけど、オティーリエさんは少しゆっくり飛んでもらえると……」


 フョークラが何かを思い出したようで、急に表情が真っ青になる。

 何かあるのだろうか。

 そんな事を考えつつも、広場でオティーリエがドラゴンの姿に。

 周囲に居た人たちが驚き、騒めいているが、そんな事おかまない無しにオティーリエの背中へ乗ると、一気に空へ。


「うひぃぃぃっ! あ、アレックス様ぁぁぁっ!」


 怯えまくっているフョークラを落ちないように支え、マリーナは……うん。楽しそうだから大丈夫だろう。

 空に登ると、オティーリエが街の真ん中にある城に向かって飛んでいき……下から何か飛んできた?


「アレックスよ。攻撃魔法が飛んできているのじゃ。まぁ我の結界を破る程の威力はないが」

「という事は、ミオの結界があれば、オティーリエも大丈夫何だな?」

「うむ。まぁこの程度の攻撃であれば、ドラゴンにはそもそも防御も必要ないのじゃ」

「わかった。オティーリエ、正面から堂々と行こうか」


 俺の言葉で、オティーリエが降下し始めたので、四人にパラディンの防御スキルを使用しておく。

 あっという間にオティーリエが城門のすぐ内側に着地すると、近くにいた兵士たちが大慌てで逃げていった。


「楽しかったのー! けど、昨日の方が、もっと速かったんだよー!」

「ギリギリ……ギリギリ耐えました」


 マリーナが楽しそうに。フョークラがグッタリしながら抱きついてくるので、二人を抱きかかえたままオティーリエから降りると、


「昨日のブラックドラゴンに……奴隷商人!? どういう事だ!?」

「いや、ブラックドラゴンが消えたぞ! 召喚魔法……か? そんな魔法は聞いた事が……もしかして、昨日第四騎士団が言っていたシャドウ・ウルフもこいつらの仕業か!?」

「見ろ! ダークエルフが居るぞっ! きっとあの女の力だっ!」


 大勢の騎士が俺たちを囲む。


「メリナ商会のザガリーという男は何処にいるのだろうか」

「はぁ!? お前、そのダークエルフがいるから調子に乗っているんだろうが……いや、もういい。皆、行くぞっ! 賊を捕らえろ! 男は殺して構わんが、ダークエルフの女は生捕りにしろ!」


 賊……か。

 昨日から奴隷商人扱いされていたが、それはまだしも勘違いでフョークラを狙うのであれば……今日は潰させてもらおう。

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