第945話 遅れて来た男
ユーリとリディアやエリーのおかげで、スノーフェアリーたちへの料理説明会が大成功に終わった。
殆どが最後のプリンに持っていかれた気もするが、是非とも野菜を調理してもらいたい。
そんな事を考えながら後片付けをしていると、ドスドスと大きな音を立てながら誰かが走っている。
振り返ると、真っ青な顔のスノーフェアリーの男性……大男の一人がやってきた。
「そんなに血相を変えて、どうしたんだ? 何かマズい事でも……」
「お、大ありですが……アレックス様を攻めるつもりはございません。それよりも、スノーホワイト。来るのは構わないが、どうして事前に連絡の一つも寄越さなかったんだ。しかも、アレックス様までお連れして」
「スノーウィ! やっと来たか。首を長くして待っていたぞ」
あ、この大男はスノーウィなのか。
ネーウの兄だが全く似ていないし、さっきまでいた大男たちと区別がつかないし……いや、服装が違うな。
何となくだけど、偉い人……って感じの服を着ていた。
「はっはっは。善は急げと言うではないか。連絡する時間も惜しかったのだ」
「こんな重大な連絡を惜しまないでくれ! アレックス様が来られるとなれば、当然我々も国として相応のもてなしをする必要があるというのに、何の準備も出来ていないではないか」
「水臭いな。妹である私にそのような気遣いは無用だぞ?」
「ネーヴにではなくて、アレックス様にだよ」
スノーウィが物凄く疲れた表情を浮かべているが、もしかして俺をもてなす準備を大急ぎでしていたのだろうか。
それは、本当に申し訳ないな。
「スノーウィ。今回は急に来てしまって誠に申し訳ない」
「お、お待ちください。アレックス様が頭を下げる事ではありません。本来は、この国の出身であり、かつ私の妹であるスノーホワイトが連絡すべきなのです。先程の話からして、スノーホワイトが強引にアレックス様をお連れしたのでしょう」
容姿は似ていないが、流石は兄妹と言うべきか。
半分正解だな。この国へ行こうと言ったのは俺だが、ネーヴに連絡など不要と急かされたからな。
「そんな事より、スノーウィよ。まずは打ち合わせをさせて欲しい。今回訪れたのは、非常に重要なイベントがあるからなのだ」
「アレックス様。スノーホワイトが言っている事は……」
「本当だ。重要で、かつ出来れば急いでもらいたい事があるんだ」
今回、このネーヴの故郷へ来たのは、ハヤアキツヒメがこの国の近くにいると聞いたからだ。
とはいえ、場所は海の底だ。
簡単に行ける場所ではないし、情報収集や、ネーヴの言う通り打ち合わせも必要だろう。
場合によっては、一旦第四魔族領へ魔法で送ってもらい、モニカや土竜耳族のジネットを連れて来る必要があるかもしれないしな。
「そういう事でしたら、私の執務室を使いましょう。余程の事でない限り邪魔されるような事はありませんし、誰かに話を聞かれる事もありません」
別に聞かれて困る話でもないが、折角の申し出なので、スノーウィの仕事場へ連れて行ってもらおうという話になったところで、意外なところから待ったが掛かる。
「お、お待ちください、スノーウィ様。この女……スノーホワイトはスノーウィ様の妹君ではありますが、あの雪の宰相です。宮殿へ入れるなどというのは……」
「……例の件か。確かに面倒な事になりかねないか」
大男たちやスノーフェアリーの女性たちとは違い、ずっとこの場に残っていたスノードロップの言葉で、スノーウィが悩みだす。
ネーヴが昔やらかした事が尾を引いていて、何か困った事になると言ったところだろうか。
「……アレックス様、誠に申し訳ないのですが、執務室ではなく私の家でも良いでしょうか。両親がおりますが、既に現役は引退しておりますので、問題はないかと」
「俺は何処でも構わないが……」
「ま、待った! スノーウィ。問題だらけだろう! 何の打ち合わせも無しに行くなど……確かにアレックスなら大丈夫かもしれないが、もっと慎重に事を運びたいのだ!」
スノーウィの家で打ち合わせをしようという話になると、何故か今度はネーヴが待ったを掛けてきて……いや、本当に何処でも良いんだが。
ややこしい事になると言うのなら、もうここで良いんじゃないのか?
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