第946話 ネーヴの目的

「では、これより打ち合わせを始める」


 ネーヴの意見で場所を移し、ハヤアキツヒメ探しの打ち合わせが開始された。

 ちなみに王宮でもスノーウィの実家でもなく、観光客用の甘味処で打ち合わせとなっている。

 何でも、この国は料理の習慣があまりなく、食事処が殆どないのだとか。

 ただ、他国から訪れた観光客からの強い要望があり、街の一角に簡単な軽食を出す店があって、その中の一店舗だそうだ。


「つめたくて、おいしー!」

「……ん。寒い外にずっといるのは嫌だけど、温かい室内で冷たいものを食べるのは平気」


 スノーフェアリーが得意とする雪の魔法で、ふわふわの雪を生み出し、そこへ果汁や果実を混ぜて食べるというもので、ユーリとレヴィアが喜んでいる。

 俺とネーヴとスノーウィは紅茶を頼んだのだが、


「実は、これにコンデンスミルクという甘いミルクを掛けると、もっと美味しくなりますよ。追加で持って来てもらおうと思いますが、お二人もどうですか?」

「ユーリもおねがーい!」

「……レヴィアたんも」


 何故かスノードロップも着いてきて、一緒に甘味を食べていた。


「……何故お前まで来たのだ。スノードロップ」

「スノーウィ様の右腕として、貴女が変な事をしないように見張る為です」

「既に身を引いた私が何をすると言うのだ」

「だったら連絡も無しに来ないでくださいよっ! 今、大変な事になっているんですからっ!」


 ネーヴと口喧嘩が始まり掛けてしまったが、レヴィアが睨んでスノードロップが静かになる。

 事前連絡をしなかった事で迷惑を掛けているのは事実みたいだな。


「俺たちの話をする前に、迷惑を掛けているみたいだから……先にそちらの話を聞こうか」

「いえ、本当にアレックス様が来ていただく事は問題がないのです。私としては、このような小さな店ではなく、王宮でちゃんともてなしたかった……という気持ちはありますが」

「俺としては堅苦しいのは苦手だし、十分なんだけどな」


 とはいえ、形式だけとはいえども国王扱いになっているので、本来は有り得ない事なのだろう。

 ……改めて心の中で謝りつつ、スノーウィの話を聞く。


「それで……ですね。問題は我が妹のスノーホワイトでして、前宰相として国を率いる立場だったのですが、少々やり過ぎてしまいました。その為、戻ってきた事を知った各地の街や村の長老たちが、抵抗を示す為に戦闘準備を始めているという情報が入っておりまして」

「それは穏やかじゃないな」

「えぇ。私も各地へ使者を送ったのですが、スノーホワイトが戻ってきた理由を説明しろと、強く反発されております」


 マズいな。俺たちのせいで内乱などが起こってしまったら、謝って済む問題ではない。


「アレックス様、スノーホワイト。まずは、この国へ来た理由を教えていただけないでしょうか」


 スノーウィの言葉で、俺とネーヴが同時に口を開く。


「とある神を探しているんだ」

「アレックスと私の結婚式だ」


 ……ん?

 今、ネーヴから変な言葉が聞こえたんだが。


「ハヤアキツヒメという神を探しているんだが」

「結婚式を挙げる前に父と母に挨拶をせねばな」


 またもや発言が被ってしまったが、俺はモニカを元に戻す為に来たんだぞ?


「アレックスが私の故郷で結婚式を挙げてくれると約束したからな。アレックスは多忙で中々来られないし、善は急げと言うだろう? だから、連絡して返事を待っている時間を惜しんで来たのだ」


 いやあの、ネーヴ。モニカを……あっ! 


「そういえば、子供を授かるか、結婚式を挙げるかのどちらかを……って話をしたな」

「うむ。という訳で、結婚式を挙げるのだ」


 確かにネーヴに言われていた。

 俺が誰かと式を挙げた事をネーヴが羨んで……だから、この貴族のような服を用意していたのか!

 ネーヴもドレスだし、大きな荷物があって、他にも何か入っていそうだし。


「……それ、レヴィアたんもする! アレックスの子供を宿すか結婚式! でもレヴィアたんは子供の方が嬉しい」

「えっ!? まだ子供ですよね? 既に子供が出来るような事を……」

「……レヴィアたんは大人。身体が小さいだけ」

「小さ過ぎる気が……あ、いえ。何でもありません」


 スノードロップが俺とレヴィアを交互に見て……頼むから余計な事は言わないでくれ。

 最悪、この店どころか街が壊れるから。

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