第5話 エルフの少女と始める、未開の地でスローライフ

「リディア……その申し出はかなり助かるけど、本当に良いのか?」

「はい! 私はエルフですからね。森の中で暮していましたし、力仕事は苦手ですけど、植物には詳しいです。それに、さっきも使いましたけど、私は精霊魔法が使えるので、土の精霊の力で、植物の栽培なんて楽勝ですから!」


 そう言って、リディアが可愛らしい笑みを浮かべる。

 確かにエルフであるリディアならば、自然を相手にするのは、お手の物だろう。

 だが、ただでさえ帰りたがっていたのに、ここに留まって俺の手伝いなんて……と思ったが、よくよく考えれば、現時点ではどこへ行けば良いかも分からないのだ。

 だったら、いずれ冒険者ギルドの誰かが様子を見に来るだろうし、その時までここで待って、どっちに行けば何があるか聞いてから移動した方が、リディアにとっても良い気がしてきた。


「わかった。じゃあ、リディア。すまないが、開拓を手伝ってもらって良いか?」

「えぇ、もちろん! でも、魔物が来たら守ってくださいね。さっきみたいに、シャドウ・ウルフなんて凄い魔物が来たら、私には手も足も出ませんから」

「任せろ。俺は守りのエキスパート、パラディンだからな。……そういえば、リディアのジョブは何なんだ?」

「私? 私はシャーマンです。精霊使いとも呼ばれますね」


 シャーマンか……なるほど。

 俺は全く知らない魔法だったけど、さっきの精霊魔法というのを使うジョブなのだろう。

 パラディンは魔法で攻撃するジョブと相性が良いし、問題無いだろう。


「では先ず、アレックスさんと私が、ここで一緒に開拓作業をしていくにあたって、最も重要な物を何とかしましょう」

「最重要というと……食料?」

「それも大事ですけど、その前に魔物の対策ですね。夜になると魔物が活発になりますから、その前に色々やっちゃいましょう」


 そう言って、リディアが俺の手を引いて家の外へ。


「じゃあ、とりあえず……≪石の壁≫。それから、≪大地の穴≫」


 リディアが精霊魔法と思われるスキルを使用し、小屋の周囲を石の壁で囲んで、その外側へ堀を作る。


「す、凄いな。ほんの数秒で壁と堀が出来るなんて」

「土の精霊の力を借りたんです。一応、扉の前は空けてありますけど、夜はここも塞いでおきましょうか」

「そうだな。容易に出来るのであれば、頼む」

「了解です。さて、次はアレックスさんが心配している食料の事ですけど……その前に、少し休憩させてください」


 そう言って、リディアがフラフラと家の中へ戻って行く。


「リディア、どうしたんだ? 大丈夫なのか?」

「あはは。精霊魔法は便利な反面、魔力の消費が激しいんですよ。ちょっと休めば回復するから、少し待っていてください」


 少し辛そうに、リディアが床に置かれた毛布の上に倒れ込む。

 エリーも時々同じような事になっていたのだが、魔法を多用し過ぎると体内の魔力が枯渇して、目眩がするそうだ。

 エルフは人間よりも体内の魔力が多いとされているにも関わらず、こんな状態になってしまうと言う事は、やはり相当な魔力を使うのだろう。

 そんなリディアに目をやると、服がボロボロなので、所々に空いている大きな穴から、綺麗な白い肌が見えてしまっていた。

 俺は倒れたリディアに近付くと、その白い肌に手を伸ばし、


「え? アレックスさん?」

「そのまま楽にしていてくれ……≪シェア・マジック≫」


 リディアの腕に触れ、パラディンのスキルの一つを発動させる。


「え? アレックスさんの手から、暖かい何かが……って、これは……魔力!? 魔力が回復していく!?」

「パラディンのスキルで、直接触れている相手に、俺の魔力を分ける事が出来るんだ」

「凄いっ! 貴重なマジック・ポーションを飲む以外に、こんな方法で魔力を回復出来るんですね!」

「あぁ。俺の幼馴染みも、よく魔力を使い過ぎて倒れていたから、こうして助けていたんだよ」


 エリーは凄い攻撃魔法が使える反面、すぐに魔力枯渇を起こしていたからな。

 今となっては懐かしい記憶を思い描いていると、


「アレックスさん。その幼馴染みって、女の子ですか!?」

「あぁ。アークウィザードっていうジョブで、色んな魔法が使えるんだけど、駆け出しの頃はよく倒れてな。だから、おんぶして運びながら、こっそり魔力を分けてあげるのが常だったよ」

「……ふーん。そうですか」


 どういう訳か、リディアが少し不機嫌になる。

 何故だ!? 俺は特に何もやらかしていないはずだっ!

 内心焦っていると、リディアが無言のまま立ち上がり、再び俺の手を引いて家の外へ。


「≪大地の息吹≫」

「なっ!? 樹が生えて来たっ!?」

「まだ苗木ですけどね。木の精霊の力を借りて、果物の木を生み出しました。後で魔力が回復したら、土の精霊の力で大きく成長させましょう……あぁっ! 凄い魔法を使ったから魔力がー!」


 先程作った壁の内側に五本の木を生やしたリディアが、その場にうずくまり、


「家の中へ運んで欲しいです。出来れば、おんぶで」


 僅か数歩の距離なのに、おんぶさせられてしまった。

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