第4話 リディアと共に家の周りを見ていたら、災厄級の魔物が現れた!

 扉を開けて外を見てみると、本当に何も無い。

 街や村どころではなく、森や山などもない、完全な更地の上に、この家だけが建っている。


「……どういう事だ!? こんな何も無い場所に、どうやってこの家を建てたんだ?」

「え? アレックスさん。この状況で気になるのは、そこですか!? ……誰かは知りませんが、転送魔法が使えるくらいの凄い人が居るみたいですから、この家を送ったんじゃないですかね? その系統の魔法は専門外なので想像ですけど」


 リディアが呆れながらも説明してくれたけど、俺だってまさかの状況に驚いて、気が動転していたんだ。

 まさか、ここまで何も無いとは思わないじゃないか。

 おそらくリディアも、遠目に街や森が見えるだろうから、とりあえずそこに向かって歩いて行くつもりだったのだろう。

 だが、何も無さ過ぎて目指すべき方角すらも分からず、途方に暮れている。


「そうだ、家の反対側を見てみよう。きっと反対側に街があるのだろう」

「そ、そうですよね。とりあえず、ここがどこかを示す手がかりくらいはありますよねっ!」


 一縷の望みを掛けて、家の反対側へ回ると、


「無い……何も無い。私は、どっちへ行けばエルフの森に帰れるのっ!?」


 こちら側も全く同じで、ただただ地平線が見えていた。

 だが、扉側と二つ異なる事がある。

 一つは、それなりの広さの畑……だったであろう場所があった。

 壊れた柵があり、前に逃げ出したという農夫たちが放置して行ったと思われる、農具らしきものが落ちている。

 そして、もう一つは、


「リディアっ! 魔物が居るぞっ! 俺の後ろへ」


 見た事の無い黒い獣が居た。


「えぇっ!? ……あ、アレックスさん! あの魔物は……」

「≪ディボーション≫」


 リディアが何か言おうとしているが、一先ずパラディンの上位防御スキルを発動させる。

 戦闘になると必ずエリーたちに使用していた、ダメージを肩代わりするスキルで、万が一リディアが攻撃されたとしても、その痛みは俺が受ける様にした。


「アレックスさん!? このスキルは!?」

「パラディンの防御スキルだ! 万が一、あの魔物がリディアに攻撃してきたとしても、そのダメージは俺が肩代わりするから、安心してくれ!」

「パラディン!? パラディンって、あの物凄くレアなジョブの!? ……いえ、それより先に、あの魔物ですね。アレックスさん、あの魔物は聖属性が弱点です! 何か聖属性で攻撃出来ますか!?」

「任せろっ! ……≪ホーリー・クロス≫っ!」


 斬撃を十字架に見立てた、縦横の二連撃を放ち、黒い獣を攻撃していると、


「≪大地の槍≫」


 リディアが聞きなれないスキルで援護してくれる。

 一方で、黒い獣が牙や爪で攻撃してくるけれど、俺の盾を破壊する事は出来ず、


「≪ホーリー・クロス≫っ!」


 三回目の攻撃スキルで黒い獣を倒す事が出来た。


「す、凄い。シャドウ・ウルフを一人で倒すなんて」

「一人ではないよ。リディアも攻撃してくれただろ? それよりシャドウ・ウルフって? リディアは、この魔物を知っているのか?」

「知っているも何も、シャドウ・ウルフ一体で村が壊滅した事もある、物凄く強力な魔物ですよっ!」

「え? 今のが悪名高い、あのシャドウ・ウルフなのか?」

「途中、私が精霊魔法で攻撃しましたよね? 土の槍を生み出したんですけど、見事に弾かれました。あれは、聖属性以外の攻撃を全て無効にしてしまうシャドウ・ウルフの特徴をハッキリと表しています」


 よく見れば、リディアが小さく震えている。

 だが、あの獣が本当にシャドウ・ウルフだとしたら、震えが止まらないのも当然だろう。

 ある国では、一体のシャドウ・ウルフによって、宮廷魔道士隊が全滅したとも言われ、災厄級と呼ばれる魔物だからな。


「けど、聖属性が弱点だなんて、よく知っていたな」

「……えっと、奴隷にされている時に、本を読むくらいしか出来る事が無かったので、色んな知識だけはあるんです」

「そうか……すまん」

「アレックスさんが謝る事じゃないですよ。それより、ここがどこで、どっちに行けば何があるのか。それが分からないというのが、困りました」

「そうだな。とりあえず、家の中に地図みたいな物が無いか探してみよう」


 一先ず家の中に入り、リディアと共に小さな家の中を探してみると、


「見つかったのは、これだけか」


 過去に居た農夫の物と思われる、仕分けされた植物の種が入った箱と植物図鑑、さまざまな農具や工具……目ぼしい物は、これくらいしか見つからなかった。


「……あれ? ちょっと待ってください。アレックスさんは、ここを開拓するお仕事を受けたんですよね?」

「あぁ、そうだけど?」

「一人でこの広い土地を開拓……って、無理じゃないですか?」

「う……言われてみれば確かに」

「それに、アレックスさんって農業に詳しいんですか?」

「え……いや、やった事がないな」


 リディアの言う通り、いくらのんびり出来る仕事とはいえ、魔物退治はともかく、農業はやった事がなかった。

 しまった……失意の中で判断力が鈍っていたのか!?

 少し後悔し始めていると、


「ふっふっふ……仕方ないですね。ここからどっちに行けば帰れるかも分からないですし、アレックスさんは奴隷から解放してくれた恩人でもあります。ここは、自然と共に生きるエルフの私が、一肌脱ぎましょう! 恩返しとして、私もアレックスさんと一緒にこの地を開拓します!」


 リディアから意外過ぎる言葉が出てきた。

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