第3話 奴隷解放スキルを使ったら……エルフの少女が現れた!
「奴隷解放スキル!? しかも、エクストラスキルだなんて、聞いた事が無いけど……一体何なんだ!?」
突然聞こえて来た声は、ジョブを授けてくれた時と同じ様に、ただ一方的に情報を伝えるだけで、こちらの問いには答えてくれない。
そう分かりつつも、独り言を言っただけのつもりだったのだが、
『奴隷解放スキルは、この世界のどこかに居る奴隷を一人解放し、貴方の傍へ呼び寄せるスキルです。七日に一度しか使えませんが、貴方の人を護る力で、解放された方を保護してあげてください』
返事が返ってきた!?
「貴方は……神様なのですかっ!?」
だが、奴隷解放スキルの説明をしてくれた以降は、何も反応してくれなくなった。
謎の声がスキルの説明をしようとしていた所へ、俺が偶然会話になるかのような独り言を発してしまっただけ……だったのだろうか。
「いや、そんな事よりも、奴隷解放スキルっていうのが、さっきの説明通りの効果なら、一刻も早く使ってあげるべきだろう。この世界に、奴隷扱いされている人がどれくらい居るかは分からないけれど、少なくともその一人を助けてあげられるのだから」
どこの国でも奴隷は禁じられているが、法律の裏で、悪さをする奴らは沢山いるだろう。
パラディン――聖騎士の名に恥じぬよう、救える者は救おうと、早速スキルを発動させる。
「≪奴隷解放≫」
早速スキルを使ってみると、
「え? 一体何が……?」
申し訳程度に粗末なボロ布を身体にあてがった、耳の長い少女……エルフが突然目の前に現れた。
腰まで伸びる金髪は乱れ、服とは呼べない布から見える手足や身体は、俺が力を込めたら折れるのではないかと思える程に細い。
「大丈夫か? 俺はアレックス。とあるスキルで、君を奴隷から解放したんだ」
「奴隷から解放? でも奴隷紋が……えっ!? 奴隷紋が消えてるっ! じゃあ、本当に私は解放されたの!? 私はエルフの森に帰れるの!?」
「あぁ。ただ、衰弱しているように思える。しっかり休んでから帰ると良い」
床に投げ捨てた荷物袋を漁り、中から毛布を取り出すと、少女の身体に掛けてやる。
食料は……まだ来ないか。
一先ず、冒険の際に持ち歩いていた携帯食を取り出し、
「こんな物でも良ければ、一先ず食べてくれ。後で、ちゃんとした食料が届くはずだからさ」
「あ、いえ。食事は普通に頂いていたので、別に空腹とかではないんです」
「え? でも、物凄く痩せ細って……」
「え、えーっと、私はエルフの中では割と標準的というか……そもそもエルフ自体がスレンダーな体型の種族なので」
「そ、そうなのか。すまん」
断られてしまった。
まさかあの細さで普通だとは。
俺の中で比較対象となる女性の身体が、一緒に風呂へ入っていた頃のエリーしかないというのがマズかったか。
エリーも痩せているのだが、もっと肉付きが……って、俺は何を考えているのやら。
「ところで、アレックスさん。ここは、何処なのでしょうか」
「あー、俺もよく知らないんだが、フレイの街の近くじゃないかな……たぶん」
「フレイの街? 私は知らない街ですが、それよりも、よく知らない……って、アレックスさんはこの家に住んで居る訳ではないんですか?」
「いや、そういう訳ではないんだよ」
エルフの少女に、俺がギルドの依頼で転送魔法により送られてきたばかりだという事を説明し、
「そういう訳で、ここがどこで、どっちに行けば君がエルフの森とやらに帰れるかも分からないんだ。すまない」
正確な現在地が分からない事を正直に謝る。
「いえ、気になさらないでください。私は、アレックスさんのスキルで助けて貰わなければ、一生奴隷のままだったんです。本当にありがとうございます」
「立ち上がって大丈夫なのか……って、そもそも衰弱していると思ったのも、俺の勘違いだったな」
「ふふっ。確かに衰弱は勘違いですけど、気遣ってくれて、ありがとうございます」
そう言って、毛布を丁寧に折りたたむと、少女が小屋の扉に向かって歩き出した。
「あの、奴隷から助けてくださって、本当にありがとうございました」
「いや、俺はただそういうスキルを使っただけだからな。どうして奴隷になってしまったかは知らないが、もう奴隷にされないようにな」
「はい、気を付けます。……あ、そうだ。私、リディアっていうんです。アレックスさん……もしも機会があれば、いつかエルフの森へ遊びに来てくださいね」
「あぁ、そうだな」
「それでは、いつかまた逢う日まで」
人間と比べ、遥かに寿命が長いエルフだからこその挨拶なのだろう。
長い年月を生きていれば、いつかまた出会う事もある……きっとそういう意味なのだと思われる。
だが人間である俺は、広い世界でリディアと再会する事は無いだろうなと考えながら、小さな背中を見送り……扉が閉じられる音と共にリディアが家の中に戻って来た。
「ん? どうしたんだ? エルフの森へ帰るんじゃなかったのか?」
「ちょ、ちょっと、アレックスさん! この家から出ました?」
「いや、さっき話した通り、本当に来たばかりだからな。まだ、この家から一歩も出ていないんだが」
「じゃあ、私と一緒に外を見てください」
リディアに手を引かれてドアの外に出ると、
「……マジか」
「マジです。ど、どうしましょう」
地平線が見える程、広大な平地にポツンとこの小屋があるだけで、周囲に一切何も無かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます