第2話 防御のエキスパートの俺。幼馴染の代わりに、街や村を守る事にする
パーティを追放され、朝食すら食べる事なく宿を出ると、これからどうするか考える。
「まさか、ローランドとエリーが恋人同士だったとはな」
色恋沙汰には疎い方だとは思っていたが、まさかずっと寝食を共にしてきた幼馴染たちの恋愛事情に気付けないとは。
幼馴染ですら、こうだったんだ。
普通ならば、パーティを追放されたら新たなパーティを探して入れてもらうのだろうが……少し一人で行動してみようか。
どこかのパーティに入って、人間関係で揉める事を避けるため、冒険者ギルドの顔なじみの職員の所へ行くと、
「おはようございます、アレックスさん。勇者パーティはいつも一緒に行動していたのに、一人なんて珍しいですね」
「……まぁ、いろいろあってパーティを抜けたんだ。なので、単身でこなせるような依頼を受けたいのだが」
パーティから抜けた事と、ソロで活動する事を告げる。
「パーティを抜けた!? アレックスさんが? だったら、エリーちゃんも一緒に抜けたんですよね?」
「エリーが? いや、エリーはそのままだ。俺だけがパーティから抜けたのだが」
「えっ!? だって、エリーちゃんはアレックスさんの事を……こほん。いえ、何でも無いです。とりあえず、アレックスさんが一人で受けられるんですよね? どういう仕事がご希望ですか?」
「そうだな。少し……のんびりしたい。人と関わらず、自分のペースでコツコツ進めていくような仕事が良いかな」
最初にローランドが勇者となり、次いで俺がパラディン。それからエリーがアークウィザードになった所で、ローランドが勇者の使命にしたがって魔王を倒す旅に出ると言い出したのが始まりだったな。
一番下のE級冒険者からスタートして、三年かけてS級冒険者になる事が出来た。
思い返せば、ずっと戦いの日々だったし、たまにはゆっくりするのも良いだろう。
そんな事を考えながら、仕事を見繕ってもらおうとすると、
「アレックスさん! それなら丁度良いお仕事がありますよ! 広大な土地をアレックスさんが自分のペースで自由に開拓出来るんです! しかも、報酬がその開拓した土地! いかがですか!? 報酬が土地ですよ! 土地!」
物凄く胡散臭い依頼を紹介されてしまった。
「冒険者ギルドが紹介するくらいだから、ちゃんとした依頼なんだろうけど……報酬が土地っていうのは今まで聞いた事がないぞ? 流石に怪しいんだが」
「いえ、もちろん依頼者の身元はハッキリしています。というか、言えませんけど凄い依頼人です。……まぁその、色々とぶっちゃけると、過去に開拓を試みたんですけど、雇った農夫が全員逃げ出してしまったそうでして」
「農夫が逃げ出した? 魔物でも出たのか?」
「流石ですね……正解です。でも、S級冒険者でパラディンのアレックスさんなら大丈夫ですよ! どうです? 受けてみませんか?」
なるほど。おそらく、依頼主はどこかの領主なのだろう。
で、土地をやるから、その場所から魔物を駆逐して、近くの街や村に被害が出ないようにしてくれという事か。
冒険者ギルドへ魔物退治として依頼しないのは、魔物の数が凄く多いのか、それともついでに開拓もして欲しいのか、もしくは両方か。
俺は守りのエキスパートであるパラディンだからな。
その近隣の街だか村だかも、守ってやるとするか。
「分かった。その依頼を受けよう。その場所は遠いのか?」
「ありがとうございます! 流石、アレックスさんです! 頼りになります! で、場所は……ちょっと遠いので、ギルド側で転送魔法を用意しているんです」
「転送魔法? つまり、その目的の場所へ、一瞬で移動出来るって事か?」
「はい。ついでに、数十日分の水や食料も一緒に転送しますね。あと、転送先は小さな家なんですけど、そこは自由に使っていただいて構いませんし、その家から見渡せる範囲は全て開拓してもらって構いません」
「へぇ、随分と気前が良いな。しかも、今の話だと、見渡せる場所全てが報酬って事だろ?」
「はい。……まぁ、それだけ依頼主が困っているという事です」
つまり、少なくない被害が出ているという事か。
俺一人でどれだけ魔物を倒せるかは分からないが、まぁ奥の手もあるし、何とかなるだろ。
「わかった。だったら、早く行ってやろう。今すぐ行けるのか?」
「え? むしろ、今すぐ行ってもらえるのですか!? でしたら、ついて来てください。部屋にある魔法陣へ入って貰えば、すぐに転送されますので」
そう言って、ギルド職員が奥の部屋へと案内する。
何やら、随分と厳重に鍵が掛かっているのだが……まぁ間違って入ったら、転送されてしまうからな。
「水や食料はお昼までには送りますね」
「わかった。では行ってくる」
「アレックスさん! よろしくお願いいたします!」
短い挨拶を交わして、荷物袋を手に魔法陣の中へ入ると、一瞬で景色が変わり、
「ナ、ナンダオマエハッ!?」
「……って、転送先の小屋の中に魔物が入り込んで居るのかよっ!」
大きな翼と角を生やした、見た事の無い黒い人型の魔物が目の前に居た。
荷物を投げ捨て、慌てて剣と盾を構えて交戦すると、どうやら聖属性に弱いらしく、
「クッ……コロセ!」
「言われなくても、ちゃんと止めを刺してやるよっ! ……≪ホーリー・クロス≫ッ!」
奥の手を使うまでも無く、数少ないパラディンの攻撃スキルで倒す事が出来た。
いきなりの事で焦ったけど、他に魔物は居ないみたいなので安堵していると、
『貴方は、魔王のしもべである悪魔マモンを倒しました。よって、エクストラスキル≪奴隷解放≫を授けましょう』
十五歳の誕生日にジョブを授けてくれた、謎の声が突然聞こえて来た。
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