挿話1 幼馴染みが居なくなり、泣いてしまいそうなアークウィザードのエリー
「んんーっ! ステラ、おはよっ!」
「おはよう、エリー。昨日の攻略は大変だったわね」
「そうだねー。余りにも魔物の数が多くて、久しぶりに魔力が枯渇するかと思っちゃったよー」
まぁ私としては、アレックスにおんぶしてもらえる口実になるから、それでも良いんだけどね。
でもジョブを授かってすぐの頃は、魔法を使うペース配分が分からなくて、しょっちゅう魔力枯渇を起こしていたけれど、流石に今は呆れられちゃうかな?
しかも、同じく魔法を使うプリーストのステラは、一度も魔力枯渇を起こした事が無いので、尚更マズいかも。
アレックスにおんぶしてもらうには、どうすれば良いかと考えながら、宿の一階にある食堂へ向かうと、宿から出て行く男性の後ろ姿が見えた。
「あれ? 今のアレックス……だよね? こんな朝早くから、どこへ行くんだろう」
「ふふっ……エリーったら、アレックスの事になると、気になって仕方がないのね」
「そ、そういう訳じゃないけど……そ、その、いつも守ってもらっているし」
「そうね。私たちは彼が居なければ、魔物と戦ったりなんて出来ないものね」
何だろう。
アレックスがこんなに朝早くから、一人で出掛けるなんて。
……嫌な予感を抱きながら、一先ずローランドに話を聞こうと食堂へ向かうと、
「エリー、ステラ。おはよう。いやぁ、素晴らしい朝だね」
芝居掛かった、あまり気持ちの良くない声が掛けられる。
「二人とも、いつものモーニングセットで良いよね? 注文しておいたよ」
「あ……うん。ありがとう」
今日は疲れているから、セットじゃなくて、もっと軽めで良かったんだけどな。
とはいえ、注文してしまったものは仕方がないので、とりあえず席に着くと、
「ねぇ、ローランド。さっき、アレックスが一人で出て行くのを見たんだけど」
早速アレックスの事を尋ねる。
「あぁ。さっき、アレックスからパーティを抜けたいと言ってきたんだ。そこで、二人で話し合った結果、非常に残念ではあるが、アイツの意向を汲む事にしたんだ」
「パーティを抜ける!? アレックスが!? どうして!?」
「エリー。最近のアレックスは戦いで全く活躍出来ていなかっただろう? どうやら、それを負い目に感じていたらしくてな」
「活躍出来ていなかった……って、どこが? アレックスが守ってくれなきゃ、私もステラも魔法に集中なんて出来ないよ」
「……だが、アレックスが魔物を倒す事が殆ど無いのは事実だろ?」
「それはそうだけど、そもそも役割が違うでしょ。魔物を倒すのは、私とローランドの役目。皆を守ったり治したりするのは、アレックスとステラの役目だもん」
アレックスは魔物を倒していない事に負い目なんて感じるかな?
そもそも、私たちはアレックスに守ってもらう前提の戦い方しかしていないし、それは分かっていると思うんだけど。
もしも、アレックスが居ないままだと、私たちはS級パーティなんかじゃなくて、B級パーティになっちゃうよ。
「私、アレックスを探して来る!」
「待つんだ、エリー。あ、アイツの気持ちも考えてやれ。……そう、俺だって必死で引き留めたさ。だけど、アイツの気持ちはもう固まっているんだ。それに、パーティの事を考えて飛び出して行ったアイツが、幼馴染に言われたから、やっぱりパーティに戻りたいなんて、言えると思うか?」
「う……確かにアレックスは、結構頭が固いかも」
アレックスは、昔から一度決めた事はやり通すタイプだ。
幼い頃に私が仔猫を拾い、でも家で飼えないと分かった時、アレックスが飼ってくれる人を探す! って言い出したかと思ったら、毎日色んな家を回って、最終的にちゃんと飼ってくれる人を見つけてきた事もあったし。
だけど、だったら尚更……私がローランドに冒険へ誘われた時に言ってくれた、「俺がエリーを守ってやるから、安心しろ」っていう言葉も、最後までやり通してよ。
「分かったか? そういう訳だから、早くアレックスの事は忘れるんだ。それに、新しいパーティメンバーなら既にアテがあるしな」
「え……ど、どういう事?」
「そのまんまの意味さ。パラディンなんていう守る事しか出来ない奴じゃなくて、守りも攻撃も出来る優秀な人だよ」
アレックスが居なくなったばかりなのに、新しいメンバーにアテが有るって、どういう事なの!?
物凄くモヤモヤした気分のまま、何の味もしない朝食を、ただただ口へ運ぶ事になってしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます