第6話 久々に趣味を満喫して、ご機嫌なリディア

「とりあえず、こんなトコかな?」

「リディア。軽く言ってるけど、かなり凄いんだが」

「あはは。普段はあまり多用出来ない精霊魔法が、アレックスさんのお陰で沢山使えるから……つい」


 リディアの言う、つい……のお陰で、小屋の周りにリンゴやミカンが成り、裏の畑にはキャベツが生えていた。

 ハッキリ言って、俺一人でここまでやろうと思ったら、一年どころか数年は掛かるだろう。


「けど、果物の樹はともかく、野菜はアレックスさんが耕してくれたお陰ですよ? 流石に精霊の力を借りても、土が固いと野菜は美味しく育たないですし」

「まぁ、体力と腕力はあるからな。それに、以前の農夫たちがそのまま放置していった、農具もあったし。だが、そもそもリディアが居なければ、こんなに早く作物が成長しないぞ?」


 畑の前で互いに褒めあっていると、ぐぅぅぅっと、大きく俺の腹が鳴る。

 そういえば、朝食を食べ損なったんだった。


「アレックスさん、そろそろお昼ご飯にします?」

「そうだな。そろそろ食料も届いているはずだしな」


 そう言って二人で小屋の中へ戻ると、俺が転送された場所に大きな箱が置かれていた。

 これがギルドから送られて来た食料なのだろうと蓋を開け……思わず固まってしまう。


「……アレックスさん? どうかしたんですか?」

「いや……なんて言うか、食料を送るって言うから、パンでも送られてくるのかと思っていたんだが……」


 箱の中にはパンなど影も形も無く、小麦粉と思われる粉の入った袋や、塩や油などだと思われる調味料? らしき瓶と水が入っていた。


「おぃ……俺は全く料理が出来ない訳ではないが、流石にこれは無理だろ。せめて、パンかパスタの状態で送ってくれよ」


 エリーが居たら、小麦粉からパンでもケーキでも作ってくれるのだが、無い物ねだりをしても仕方が無い。

 とはいえ、この状態からどうしろっていうんだ。


「あ、あの。アレックスさん……もしかして、それって小麦粉なんですか!?」

「すまん。食料を送るとは聞いていたんだが、まさかこんな状態とは思っていなくてさ。とりあえず、リディアが成長させてくれたリンゴでも……」

「お願いしますっ! それ……私に調理させてくださいっ!」


 突然の発言に驚いて振り向くと、リディアが目をキラキラと輝かせて、箱の中を覗き込んでいた。

 一体何事かと聞いてみると、


「いきなりごめんなさい。実は私、料理が趣味なんです。だけど、人間に捕まって奴隷にされている間、長らく料理が出来てなくて……あ、バターや粉末ミルクも入ってます! これなら、色々作れますよっ!」


 説明しながらも、その視線は箱の中に向けられ、嬉しそうに中身を確認している。

 ある程度中身を確認し終えると、リディアが嬉しそうに食料を取り出し、


「あ、流石にコンロは無いのかぁ……残念。とりあえず、何か器を……あ、あった。しかもフライパンもある!」


 キッチンとは到底呼べない部屋の隅で、棚から調理器具見つけて手早く何かを作っていく。


「えっと、何か手伝った方が良いか?」

「んー、今から焼いていくんですけど、コンロどころか燃やす物すら無いので、精霊を出し続ける事になっちゃうんです。ですから、魔力を少し分けていただけると助かります」

「わかった。それならお安い御用だ」


 本当は枯れ木や石炭といった、火を付ければ燃える物――燃料となる物があれば良かったんだけど、その代わりに魔力を燃料にするという訳だ。

 何かを乗せたフライパンを持って小屋の外へ出ると、早速リディアがスキルを使用し、火を起こす。

 そこへフライパンを乗せ、暫くしたらひっくり返して……


「出来ましたーっ! パンケーキですっ!」


 リディアが満面の笑みを浮かべながら、お皿に乗ったパンケーキを見せてくれた。


「いただきます……おぉっ! 旨いっ! この付け合わせの焼きリンゴも、パンケーキに合うなっ!」

「ありがとうございますっ! んー、卵があれば、もっと美味しく出来たんですけど……でも、久しぶりの料理は楽しかったですし、アレックスさんに食べていただけたので満足ですっ!」

「しかし、リディアが居てくれて、本当に助かったよ。俺一人だったら、とりあえず小麦粉に水と塩を混ぜて焼く……くらしいか思いつかないしな」

「それはそれで、ちゃんと寝かせれば美味しく出来そうな気がしますよ?」


 材料は限られているけど、リディアのお陰で美味しい食事にありつけた俺たちは、どういう風に周辺を開拓していくか、意見を出し合う事にした。

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