第7話 食料問題は解決したけど、新たに浮上してきたシャワー問題

「≪ホーリー・クロス≫!」


 昼食を済ませ、リディアと相談して畑にポテトを作って貰った所で、本日二度目となるシャドウ・ウルフが現れ、今回もパラディンのスキルで倒す事が出来た。


「リディア、大丈夫か?」

「えっと、大丈夫なのは大丈夫ですけど……アレックスさん。流石に戦闘中は私を降ろした方が良いのではないでしょうか」

「あ! 言われてみれば、確かに。リディアが軽いから、忘れていたよ」


 ポテトを作ると決めた後、先ずはキャベツ畑の横を俺がクワを使って耕し、そこへリディアが木の精霊の力を使って植物を生み出す。

 その後、土の精霊の力を使って成長させるんだけど、魔力の消費が激しく、すぐに魔力枯渇が起こってしまう。

 その対策の為、先に俺が耕す作業を終わらせ、リディアをおんぶしながら移動し、ポテトの生成、成長、魔力補給というのを連続して行っていた。

 そんな時にシャドウ・ウルフが現れたので、そのままリディアを背負いながら戦ってしまったんだ。


「今回は現れたのがシャドウ・ウルフだったから良かったけど、次はちゃんとリディアを降ろさないとな」

「あの……シャドウ・ウルフも十二分に脅威というか、一般的には恐ろしい魔物なんですけどね」

「まぁシャドウ・ウルフは、幸い聖属性に弱いっていう弱点があるからな。それより、次の小麦に移っても大丈夫か?」

「はい、大丈夫ですよ。それより、アレックスさんこそ休憩は要らないんですか? 今もパラディンのスキルを使われていましたし、私に何度も魔力を分けてくれていますし」

「いや、実はパラディンのスキルで、体力と魔力が自動回復していくんだよ。だから、何の問題も無いよ」


 防御に関しては最高峰のジョブであるパラディンには、≪リジェネーション≫というパッシブスキル――常時発動スキルがあって、戦っている最中だろうと移動中だろうと、勝手に魔力などが回復していく。

 その為、元々魔力の消費が少ない事もあって、魔法で攻撃するジョブとは相性が良いんだ。


……


「出来たー!」

「あぁ。一先ず、これで食料は自給自足が出来そうだな。ありがとう、リディア」


 ポテト畑と同様にリディアをおんぶして小麦畑を作り、畑の周りを堀と壁で囲う。

 それから、今日の夕食分のポテトとキャベツを収穫して、小屋へ。

 既に日も傾き始めていたので、出入口用の穴を塞いでもらったし、初日の活動はこれで終了として良いだろう。

 かなりクワを振るったし、シャワーで汗を流して……


「そ、そうか……よく考えたら、シャワーなんて物はないのか」


 今の状況に気付いて、流石に崩れ落ちそうになる。

 俺一人ならともかく、リディアが居るから……汗臭いとか言われたら、立ち直れなさそうなのだが。


「シャワーなら、お昼ご飯を作った時の様に、私が水の精霊の力で出せますよ?」

「だが、その精霊魔法のスキルは、魔力を多く消費するだろ? 難しいんじゃないか?」

「そうですか? これまでみたいにアレックスさんが魔力を分けてくれれば、大丈夫だと思いますけど?」

「いや……だってシャワーだぞ? つまり、全裸になる訳で……」


 俺の言葉で、リディアがようやく理解したらしく、一瞬で顔が真っ赤に染まる。


「わ、私は……命の恩人のアレックスさんさえ良ければ、その……い、一緒にシャワーを浴びても……」

「だ、だが……それは二人とも全裸になる訳であってだな」

「え、えっと、幸いというか何というか、私は奴隷にされていましたけど、人間にはエルフが珍しいらしくて、見せ物にされていただけで、エッチな事はされていないから、身体は綺麗です……って、わ、私は何を言っているんでしょう! い、今のは無しでお願いしますっ!」


 食料問題が解決した所で、新たに浮上したシャワー問題に二人であたふたし、色々考えた結果、


「じゃ、じゃあ……アレックスさん。私は大丈夫ですから、う、動いて良いですよ」

「あ、あぁ。ゆっくり……ゆっくり動くぞ」

「ちょ、ちょっとだけ待ってくださいね。こういう事をするのは初めてで、やっぱり少しだけ怖いので」

「分かった。リディアのペースで行こう。だから、無理はしなくて良いからな」


 互いに全裸で背中合わせになると、俺が後ろ向きになったままのリディアの手を引いて、仮設の水浴び場へ行く事に。

 小屋を出て、急ごしらえの石の道をゆっくり歩くと、壁の隅へ。


「では、出しますね。……≪恵の水≫」


 リディアのスキルで、俺たちの頭上から少し弱めの冷たいシャワーが降り注ぐ。

 俺は右手、リディアは左手を繋いだまま汗を流し、


「アレックスさん。そろそろ大丈夫ですか?」

「あぁ、大丈夫だよ。ありがとう」

「じゃあ次は……≪癒しの風≫!」


 優しい風が身体や髪に付いた水滴を飛ばしていく。

 髪の長いリディアは完全に乾いた訳ではないだろうが、リディアが風を止めたので、


「じゃあ、戻るぞ。足元が濡れているから、後ろ向きのリディアは、特に気を付けるんだぞ」


 来た時と同じようにして、小屋へ戻る事に。


「はい。大丈夫で……きゃあっ!」

「リディアっ! 大丈……夫」

「すみません。少し滑りそうになっただ……け」


 リディアの悲鳴に反応して思わず振り向いてしまい……互いに顔を赤く染める事になってしまった。

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