第28話 ゴーレムが居た先の調査で見つけた、予想外の物
「ごちそうさま。リディアもエリーも、ありがとう。とても美味しかったよ」
「えへへ……ど、どういたしまして」
「うんっ! 喜んでもらえて良かった」
昨日はお風呂でのぼせてしまったリディアだが、完全に回復し、エリーと共に美味しい朝食を作ってくれた。
後片付けを俺とニナで済ませると、
「さて……じゃあ、行くか」
昨日遭遇したゴーレムの周辺について調査する事にした。
今回は、盾と鎧を身に着け、エリーも戦闘用の杖を持っている。
防御スキルを含め、戦闘準備をしっかりした上で地下洞窟へ入り、所々でニナが生やしてくれた光る苔を目印にして進んで行く。
暫く進むと、少し開けた場所に出た。
「ここが昨日ゴーレムと遭遇した場所だな。皆、ここから先は慎重に進むぞ」
盾に灯した照明をかざし、改めて周囲を確認しながら進んで行き、ある事に気付く。
「む……あれだけ沢山湧いていた魔物が居ない?」
「そういえば……昨日ゴーレムと戦っている時も、他の魔物は出てきませんでしたね」
「何か魔物が嫌う物でもあるのかなー?」
リディアやニナの言う通り、ここは魔物が近付いてはいけない場所……とでも言うかのように、寄って来ない。
「昨日、私が倒し過ぎちゃったとか?」
「いや、それでもここへ来るまで、サソリやウサギが沢山現れただろ? 魔物はまだまだ大量に居るはずだ」
「じゃあ、魔物除けの結界だとか、仕組みとかがあるんじゃないかな?」
「……もしかして、それが昨日のゴーレムではないのか? この先に魔物を近付けたくない何かがあるとか」
エリーと話をしているうちに、昨日のゴーレムが何かを守っていたのではないかという気がしてきた。
ただ仮にそうだとしても、誰がゴーレムを生み出して命令したのか、何を守っているのかという疑問は残るが。
念の為、ここまで魔法で魔物を倒してくれたエリーに魔力を分けておき、警戒しながら進んで行くと、小さな家のような物が見えてきた。
「こんな場所に家!? ……いや、社か? 何れにせよ、どうしてこんな所に、こんな物が!?」
「んー、お兄さん。じゃあ昨日のゴーレムは、これを守っていたのかなー?」
「おそらく、としか言えないが、その可能性は高い……待てっ! ニナ、何か居るっ!」
嫌な気配がして、社に向かって歩き出していたニナを抱きかかえると、大きく後ろへ跳ぶ。
驚いたニナが何かを言い掛けた直後、突然目の前の地面に大きな亀裂が走った。
「ほぅ……よく気付いたな」
「あぁ。俺は、お前みたいな奴には鼻が利くからな」
「わゎっ! お、お兄さん。ありがとう」
ニナを降ろして剣と盾を構えると、人の形をした人ではない者――大きな翼や角の生えた異形の者が、亀裂から姿を現す。
「私が何者か分かっているようですね」
「あぁ、一度戦った事がある。マモンとかって奴と同じ、悪魔だろう?」
「ふっ……あのような知性の低い物と一緒にされては困りますね。私の名は、ベルンハルト。魔王様に仕える魔族の四天王……土のベルンハルトですっ!」
そう言って、ベルンハルトが手を前に突き出すと、茶色い槍――土で出来た槍が飛来して来た。
しっかりと腰を降ろし、盾を構えて受け止める。
……重い。
かなりの威力なので受け流したいが、後ろに誰かが居るかもしれないので、そのまま耐えていると、
「≪石の壁≫」
「≪フレイム・ランス≫」
リディアが石の壁を生み出して土の槍を止め、ベルンハルトの横に回り込んだエリーが炎の槍で攻撃する。
だが、ベルンハルトに炎の槍が直撃したものの、霧散し、ダメージを与えられているようには思えない。
「はっはっは。そこの女性は、魔族相手にそんな攻撃が通じるとでも思ったのですか?」
「くっ……土を扱う魔物は火に弱いっていうのが摂理なのにっ!」
「魔物なんかと比べてもらっては困りますね。先ずは、無知な貴女から死んでもらいましょうか」
そう言って、ベルンハルトが今度はエリーに向かって手を伸ばす。
あの位置だと、今からでは間に合わない。
ならば……と、横を――エリーが居る方向を向いているベルンハルト目掛けて突進する。
一方で、エリーは自身に向けられた土の槍を避けようとするが、左腕に受けてしまい、パラディンの防御スキルでダメージを庇っている俺の左腕に、そのダメージが伝わってきた。
思わず盾を落としそうになってしまったが、ギリギリ持ちこたえ、そのまま走り抜く。
「アレックス! ごめんなさい! 大丈夫!?」
「俺なら大丈夫だっ! 気にするなっ!」
「なっ!? 何故ダメージを受けていないっ! その細い腕が吹き飛んでもおかしくないはずなのにっ!」
驚くベルンハルトに大きな隙が出来ているので、左腕の痛みに耐えながら、聖属性の攻撃スキルを叩き込む。
「くらえっ! ≪ホーリー・クロス≫!」
「ふっ、普通の剣で魔族にダメージを与えられるとでも……な、何だとっ!?」
四天王……が何かは知らないが、それなりに強いようで一撃では倒せない。
だが、確実にダメージは与えている。
「その攻撃……なるほど。貴方が人間族の勇者なのですね。私がヤツを抑え込んでいる間に、こんな所まで勇者が来ていたとは」
「勇者? いや、俺は勇者ではないぞ」
「そんなバカな! 我ら魔族に――少なくとも四天王クラスの魔族にダメージを与えられるなど、勇者だけのはずではっ!?」
ベルンハルトが驚いているが、そんな事を言われても違うものは違う。
しかし、先程ベルンハルトが言った「ヤツ」とは何の事だろうか。
……いや、それよりも今は、こいつを倒す事だな。
「≪ホーリー・クロス≫!」
「甘い! 一度見せた技が、私に効くと思うなっ!」
再び攻撃スキルを使用するが、ベルンハルトに防がれる。
とはいえ、完全に防がれている訳ではないので、多少のダメージは与えていると思うが、このままではジリ貧になってしまう。
パラディンは防御スキルが多く、中位まで神聖魔法が使用出来る反面、攻撃スキルが少ないので、他の攻撃手段に変えるというのも難しい。
仕方が無い……奥の手の一つを使うか。
これは数少ない攻撃スキルの一つで、強力な攻撃が出来る反面、デメリットもあるので、出来れば使いたくなかったが……そうも言っていられないだろう。
「エリー! アレを使う。後は頼んだぞ」
「えっ!? アレックス!? アレをこの状況で!? ステラも居ないのに、こんな場所では無理よっ!」
焦るエリーを他所に、ベルンハルトと攻防を続けながらチャンスを伺い、
「≪グランド・クロス≫」
生命力の一部と全ての魔力を聖なる力に変換させ、強力な一撃を放つ攻撃スキルを発動させた。
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