挿話10 エリーが居ない事に気付いてしまったマジックナイトのモニカ

「クソがっ! どうして、いつもいつも上手く行かないんだっ!」


 元アレックス様の仲間、ローランドが今日も酒場で荒れている。

 噂では、アレックス様が抜けてから、三回連続で依頼達成に失敗しているとか。

 確かS級冒険者は、五回連続失敗でA級冒険者に降格だったはずだ。

 そろそろ後が無いのだから、身の丈に合った依頼を受ければ良いのに。


「じゃ、じゃあ……私たちは先に部屋へ戻っているから」

「畜生……エリーだけじゃなく、ステラやグレイスまで俺を見捨てるのかよ。おい、酒だ! 酒を持って来い!」


 ローランドが早々に立ち去るパーティの仲間を恨めしそうに見つめながら、手にしたグラスを空にする。

 彼は、依頼が失敗に終わる理由を考えた事があるのだろうか。

 国によっては、授かっただけで英雄扱いされるという勇者のジョブのローランドと、プリーストのステラ殿。アークウィザードのエリー殿に、もう一人は知らない顔だが、見た目からしてローグと言った所だろう。

 そこまでメンバーのバランスは悪く無いはず……って、ちょっと待った。

 今、歩いて行った三人の女性の中に、エリー殿の姿はあったか?

 ローブを着て杖を持った女性が居たものの、明らかに私より背が高かった。

 確かエリー殿は私より背が低かったはずなのに!


「ローランド殿! 聞きたい事がある」

「おっ、これはモニカちゃんじゃないか! 相変わらず、いい身体してるよな。どうだ、勇者様である俺と一緒に飲まないか?」

「断る。それより、エリー殿はどうしたのだ!? 一緒に行動していないのか!?」

「エリー!? はっ、あんな尻軽女の事なんて知らねぇよっ!」

「知らない……という事は、このパーティには居ないという事なのか!?」

「そうだよっ! せっかく俺が良い思いをさせてやろうと思ってベッドへ連れて行ってやったのに、氷結魔法を掛けて逃げやがったんだ! ふざけるなっての!」


 いや、ふざけているのは、お前だろう。ローランド。

 話を聞くに、どうせ無理矢理エリー殿をベッドへ押し倒そうとでもしたのだろう。

 内心、エリー殿に同情していると、


「……それより、モニカ。今から俺の部屋に来ないか? 二人で楽しい事を……」

「≪ミドル・フレイム≫」

「うぎゃぁぁぁっ! 熱いっ! 熱いぃぃぃっ!」

「威力は抑えておいた。反省しろ」


 事もあろうに私の身体に触れようとしてきたので、伸ばしてきた左手を中位の燃焼魔法で燃やしてやった。

 ……威力は抑えたものの、中位の魔法は少しやり過ぎだったかもしれないが、正当防衛だと言って良いだろう。

 それよりも、エリー殿がパーティを抜けている事の方が気になる。

 昨日の朝は、エリー殿を見たような気がするが、先ほどの魔道士然とした女性と見間違えた可能性を否定出来ない。

 ならば、エリー殿はどこへ行ったのか。……まさか、抜け駆けしてアレックス様の所へ!?

 仮にそうだとしたら、非常にマズい。

 もしも魔族領でエリー殿と二人切りだったら……アレックス様が襲われてしまうっ!

 それにタバサ殿の話によると、今のアレックス様はケダモノ化しているとか。

 私のこの身体をアレックス様に捧げる絶好の機会だというのに、それをみすみす逃すなんてっ!

 急いで私もアレックス様の元へ向かわないとっ!


「てめぇ……よくもやってくれたな! 勇者であるこの俺様が、せっかく声を掛けてやったのによ」


 今すぐ冒険者ギルドへ向かわなければならないというのに、ローランドが立ち塞がり、剣を……抜いた。


「抜いたな。ならば、こちらも容赦はせん」

「うるせぇっ! 俺様の剣の錆にしてやるよっ! ≪サンダー・ブレード≫ぉぉぉっ!?」


 ローランドが勇者のスキルで剣に雷を纏わせ……足がもつれて勝手にこけた。

 先日、こいつのパーティに誘われたが、断って本当に良かったと思う。


「貴様は、私が剣を抜く程の相手では無かったようだな。剣を振るう事すらバカらしい」

「おい、待てっ! まだ話は終わっていないっ! 待ちやがれっ!」


 ローランドが一人で転倒し、他の冒険者たちに取り押さえられて何か喚いているが、もう私に関係ないだろう。

 とにかく急いでギルドへ行くと、タバサ殿の所へ。


「モニカさん。もう、今日は終業なんですが」

「それより教えてもらいたい事がある。先程ローランドから、エリー殿がパーティを抜けたと聞いたのだが、何処へ行ったのだ!?」

「……こ、個人情報なので……」

「まさかアレックス様の所へ行ったのではないか? どうなのだっ!? ……行ったのだな!?」


 タバサ殿が無言で目を逸らす。

 これはもう、確定と言って間違いないだろう。


「タバサ殿。私も、アレックス様の所へ送っていただきたい。宜しいな?」

「ま、待って下さい。エリーさんの件はさて置き、アレックスさんに無断で人を送るなんて出来ません。向こうには向こうの事情があるでしょうし」

「それは前にも聞いた! では何故エリー殿は送って、私はダメなのだっ!」

「と、とりあえず、次回の定期連絡時にモニカさんの名前を出して、送って良いか確認しますから」

「…………絶対に頼む」


 くっ……アレックス様がエリー殿の魔の手にっ!

 早く……早くアレックス様にこの身を捧げ、エリー殿よりも、私の方が良いという事を知っていただかなくては。


「……そうだ。それはそれとして、先程近くの宿の食堂で、ローランドに剣を抜かれたぞ。冒険者たちに取り押さえられていたから、早く職員を送ってやって欲しい」

「何ですって!? あのバカは、本当に問題行動ばかり起こしてっ!」


 一先ず経緯などを話すと、今から飲みに行く予定だったというギルドマスターが、自らローランドの所へ向かって行った。

 ふっ……自業自得ね。

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